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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2004.07.07

第21回 第3製作課題“無垢材のみの家具”

こんにちは、須藤 生です。ストックホルムでの一年目もようやく終了し、夏休みが始まりました。実際は製図等が残っているので登校はしていますが、一段落です。

さて、今回はテストに追われながらも製作を進めた戸棚の紹介をします。“無垢材の家具”という課題で、引き出しや扉がついている物を各々がデザインし製作しました。僕は壁に取り付けることの出来るアクセサリー収納ケースをデザインしました。引き出しの前面が波打ったフォルムで、他の部分も同じように曲線になっているため、想像以上に製作は困難でした。

曲面へ溝を掘る加工をしています。本来は刃の上側で型に沿わせる方が見た目でも安心なのですが、部材が小さいことからこの様な方法を選びました。このフレース盤という機械は多種多様な加工をすることができますが、危険度も高いのでしっかりとした準備と慎重な作業が求められます。


木は湿気の変化などでねじれたり、収縮したりします。これを“木が動く”と言いますが、そのために今回の製作では枠を作り、内側に板をはめ込む構造になっています。内側の板(枠に溝ではめ込んである)は動かない程度に接着をしているだけなので、外側の枠との隙間分は収縮に対応出来るようになっています。扉など大きな面積の板が必要な部位に用いられるテクニックです。


真鍮(しんちゅう)の蝶番(ちょうばん、ちょうつがい)です。固定するネジと溝が一致するように先に加工をしています。写真の中で見えているネジはこの加工時に固定するためで、実際は真鍮のネジを使用します。


天板になる板。蝶番は接着前に取り付けています。手前側は接着後に曲線に加工します。


蝶番は木の表面からほんの少し(0.5ミリくらいがベスト)だけ出るように固定し、表面はヤスリで削って木の面と同じにします。


天板に鏡がついているフタを試しに取り付けてみました。それぞれの隙間の間隔も一定でうまくできたようです。


側板となる部です。背面側(左)の枠を加工時に角度を間違えてしまったので、相手側(下枠)もそれに合わせる羽目になりました。


他の一年生の加工風景です。左の彼女は作業が速く、すでに完成間近です。引き出しの組み手を加工中。


これも課題作品のひとつ。これもまた非常に複雑な構造で、一工程進むだけでもかなりの準備時間がかかっています。


先ほどの彼女の作品です。これに次の写真の扉がつきます。


第19回レポートで加工中の扉を紹介していましたが、この様な形状になります。内側も同じようにへこんでいるので、まるで押し出されたようにも見えます。塗装はデーニッシュオイルを2回塗っています。


こちらは他の戸棚の本体組み立て中。内側の塗装を終えてから接着します。


この3年生は椅子の座面を編んでいます。カール・マルムステンが有名になった“市庁舎の椅子”を作りました。


すんなりと作業をしていましたが、実は初めてだそうです。先生からやり方を教わって二日で編み上げました。


これは2年生が作っているウェグナーの椅子“The Chair”。背もたれと一体になるアームの接合法が特徴にもなっている椅子で、どの様に加工するか気になります。


3年生が製作したウェグナーのYチェアー。


2年生が来年の職人試験を受ける前に製作しているマルムステンの机。この上にさらに小さな引き出しなどがつきます。


机の脚も含め、全体を突き板で装飾する作りになっています。彼はこの机が完成したら彼女にプレゼントするそうです。


再び僕の作品です。本体部を組み上げました。曲線ばかりの為、ちょっとずれたり、角度が正しくないと他の場所へも大きく影響が出てしまうので、かなり神経を使います。正直に言うと、こんなデザインに挑戦するのはやめておけば良かったとウンザリしつつありました(笑)。


天板には革を貼りました。フタを開いてアクセサリー等を置くように考えています。


引き出しの背面部の組み手です。


引き出しの前板を接着する前に、仕切り板の溝を手加工しました。


枠のみを組み立ててから底板を接着するフランス式の製作法を選びました。


課題製作に追われている中、テストと椅子図面の課題まであり大忙しでした。試験は家具様式史とデザイン史の二つ。ほとんど勉強する時間がなかったのですが、書ける所だけ埋めておきました。製図は、来学期の椅子製作課題へ続く物で、椅子の現物から採寸し、図面を描き、同じ物を作ります。


各々が作りたい椅子を見つけ、店から借りるなりして採寸しました。小さな点をいくつも図面上に取り、つないでいきます。


直線の多い椅子ならばそれほど苦労はありませんが、曲面の多い物になると採寸だけでかなりの手間がかかります。僕は最初、フィン・ユールの椅子を作ろうと考えていましたが、先生と相談した結果、マルムステンの椅子にすることにしました。フィン・ユールの椅子は採寸も、製作もかなり困難(とても時間がかかる)だから、特に家族のいる僕はやめておいた方が良い、とのアドバイスでした。


というわけで、僕はこのマルムステンが1953年にデザインした椅子を選びました。現在は製作されていないモデルですが、ストックホルムのマルムステン家具店か、マルムステン財団が所持しているだろうと思っていたら、在庫がありませんでした。そこで僕が去年まで在籍していたカペラゴーデンに一脚あることを知っていたので、貸し出しを受けました。


あまりにも締め切りまでの作業時間がないので、今回は採寸だけをし、図面描きは戸棚の製作後にすることにしました。背面に壁掛け用の金具を取り付けています。


壁に取り付けた状態で使用します。


一番、不安だった引き出しと本体の納まりもうまくできました。フタは革の取っ手を引き、開きます。


枠部はこの様に斜めに加工しているので、接着時にどのように圧を加えるかに苦労しました。


引き出し収納時と使用時。引き出しはそれぞれの前板の下側(上段は左右、下段は真ん中)に手を掛けられるようになっています。


上段の引き出しです。指輪やイヤリング等を収納するように革で包んだスポンジは、前板に合わせてカーブしています。後部はブローチ等のスペースで、仕切りは取り外しできるようになっています。


下段引き出し、前部は大きめのバングルなどを収納できるように深めになっています。後ろ側の箱は取り出せるようになっています。箱の下には銀磨き、布などの手入れ用品を入れることを考えています。


完成後の発表です。この発表でしっかりと製作過程での事柄を理解していると認められると判断されれば、大学の単位をもらうことができます。カールマルムステン校は大学に属しているため、単位をしっかり取得しないと卒業することができません。


僕は今回、十分な時間があるとは言えないプレッシャーの中で製作することを初めて体験しました。緊張感を維持しながら製作をすることは辛くもありましたが、その中で失敗をしないように集中力を高く保つことは良い経験にもなりました。同じ物でも速く綺麗に作れることが将来、仕事として物を作るようになった時には絶対に必要な事だからです。

次回はこの課題製作まっただ中で行われた展示会の様子を紹介します。

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!