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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2003.04.02

第2回 Capellagården (カペラゴーデン)

今回は現在、僕が在籍しているCapellagarden (カペラゴーデン) の紹介をします。僕がここで学んでいるからではなく、スウェーデンの工芸教育を知る為にもとても重要な学校だからです。

カペラゴーデンは木工・家具デザイン科、テキスタイル(織物、染色)科、陶芸科と園芸(ガーデニング)科の4つのコースを持っています。前回のレポートでも紹介したストックホルムにある Carl Malmsten CTD を創立したスウェーデンの家具デザイナー、Carl Malmsten(カール・マルムステン)が創立した、もう一つの学校です。

1957年にスウェーデン南東にあるエーランド島のビックルビー村にあった古い農家をマルムステンが買い取った時から、カペラゴーデンの歴史は始まります。彼はここに若い世代の為に、家庭や社会での基礎となり得る精神的、物質的な物を守りつつ、身につけることを学べる“物作り”の聖域を作りたいと考えました。

買い取った後、元々あった建物 (農家の家、2つの牛小屋、ワイン貯蔵庫、そしていくつもの納屋) を残しつつ学生が学び、生活できる場所としての改装が行われ、1960年に最初の短期のコースが始まりました。当時からのカペラゴーデンの基本的な理念である“自然、伝統そして日常に必要な物から、デザインと私達の生活をより良くする為の技術と知識を学ぶ”ということは、現在も変わっていません。“物を製作することを通して学ぶ”というのが教育方針です。

学生達は基本的に校内で学び、作業をし、敷地内にある寮で共同生活をしています。生活の中にある物は、過去の学生達が作った物が大部分です。例えば家具ならば木工科、コップは陶芸科、マットはテキスタイル科というようにです。それらに触れ、考え、そして影響を受けることで、新たな物を作り出せるかもしれません。

60年代の学生が言っていたのですが、カペラゴーデンは“村の中にある村(共同体)”のような所です。春になると園芸科が校内の整備をし、収穫された野菜、果物は食事となって出てきます。このように生活に必要な物を皆で作り出せるような環境になっています。

最大で木工科は3年間、陶芸科とテキスタイル科は2年の間、学ぶことが出来ます。園芸科は3月から冬が来る前までの1シーズンのコースです。

カペラゴーデンのあるエーランド島の南半分はユネスコの世界遺産に指定されている地域でもあり、夏になると観光客や、カペラゴーデンの夏の展示会(学生の作品の展示即売をします)を訪れる人々で校内への見学者が増加します。観光バスが乗りつけてきたり、国王(島内に別荘を所有しています。)が自分で車を運転して来たりもします。

では、話を続けるよりも校内を案内いたしましょう。

カペラゴーデンの正門にある看板です。“カペラガーデン”ではなく、Aの上に小さな丸が付くことで発音がオーになり“カペラゴーデン”と読みます。正式名称はカペラゴーデン手工芸学校と言います。


春の訪れを感じる3月のカペラゴーデンです。学生数は全部合わせても60人ほどの小さな学校です。


もう少し進んだ所で、今度は冬の写真です。正面に見える建物がカペラゴーデンのオフィスです。真冬でも皆さんが想像するほどの雪は積もりません。僕が知っている限りでも膝丈くらいまでで、長野や東北の方が寒く思います。


休憩の時間です。暖かくなってくると、この様に太陽の日差しを受けに外へ出てきます。逆に冬の間は4時には日が沈んでしまう日々が続きます。


一階に木工科、二階にテキスタイル科の教室があります。教室というよりも作業場があります。


図書館です。園芸科が植えたチューリップが咲き乱れています。周りにはラベンダーが植えられていて、夏になると良い香りが漂います。


学生達の講堂としても使われる図書館です。並んでいる椅子たちはカール・マルムステンのTalavid。


カペラゴーデンの顔とも言えるオフィスの入り口の扉です。カペラゴーデンが本になった時にも表紙として使われました。


テキスタイル科に入ってすぐの部屋です。日本にも輸出されているタイプの織り機です。もっと幅広の物にも対応する大きな物もあります。


黒の縦糸に赤の横糸を通しています。横糸を手前に寄せる時の音と振動はすごく、下の階の木工科で物が落ちることがあるほどです。


これは生地を植えています。


縦糸を張っているところです。強く引っ張ってピンッと張ります。


校内にはこの様な家々が数件建っていて、学生達が生活しています。キッチン、シャワーとトイレは共同ですが、各々の部屋は個室です。この2軒は学生寮の中でも特に古い建物で、改装時の記録を見ると、マルムステンを中心に、ストックホルムにある現在の Carl Malmsten CTD、マルムステン家具工房とカペラゴーデンが協力して作業をしたことが分かります。あらゆるディテールにスウェーデン的なものや、いかにもマルムステンという感じのものがあふれています。色遣いは日本では見ないタイプです。この時のメンバーには、日本でも良く知られているジェームス・クレノフもいました。


全部で7部屋ある学生寮です。床張りなど新しくなっている部分もありますが、壁などは昔のままになっています。


右上の写真の、キッチン兼リビングです。暖炉が奥に見えています。


僕が住んでいるこの家は他と異なり、二部屋だけの小さな建物です。カップルや家族が住めるように少し広めの部屋になっています。子供がいる学生も何人かいるのですが、希望すれば校内で一緒に住むことが出来ます。


陶芸科の教室は、それまで使ってきていた古い建物から引っ越し、校内で一番新しい校舎になりました。最新の設備が整っているのですが、至る所に伝統的な手法を用いたり、カペラゴーデンらしいと感じられる作りになっています。


全ての科に言えることですが、学生達は自分の作りたい物、やりたいことを主体として活動をすることができます。伝統的な物を考える人もいれば、とても前衛的な物、モダンなことを好む人もいます。各科の先生達は、それらを踏まえてアドバイスする役目を担っています。


スウェーデンの教育の仕方だとも思いますが、良くない所を指摘するということよりも、良い所をさらに伸ばせるような指導が行われます。


電気釜のある部屋への通路です。壁は害のある成分を含まない塗装法で仕上げられています。扉への塗装も伝統的な手法だそうです。日本と比べてシンナーを含まない水性塗料も、街中でたくさん売られています。


窯の部屋に置かれていた様々な作品達。使いやすい物もあれば、そうとも思えない物まで様々ですが、それらを自分たちで使ってみることで新たな勉強になります。


低い位置でろくろを挽く日本とは異なり、スウェーデンでは高い位置で作業をします。個人のスペースごとに窓が付いていて良い光が入ってきます。


2002年のカペラゴーデンでのクリスマスマーケットの時に陶芸科の学生が製作した家々。中にロウソクを入れること窓から光が漏れ出てきます。隣り合った家の壁に光が映るのがとても綺麗で好評でした。


陶芸棟の落成式には、建設の為の資金援助を行ったスウェーデン王室からビクトリア妃が訪れました。彼女はスウェーデンの次期国王になることが決まっています。日本での話題と似ていますが、スウェーデン初の第一子の女性国王です。


カペラゴーデンの学生達が朝昼晩の食事をする、元はワインの貯蔵庫だった食堂です。椅子はカール・マルムステンの代表作でもあるLilla Alandです。現在でも生産されているモデルで、とてもスウェーデンらしい椅子です。


カペラゴーデンの食事の為の食材は、可能な限りエコロジーな物が選ばれています。農薬を使わずに育てられた有機野菜、豚小屋ではなく放し飼いで育てられた豚などです。夏になると校内で採れた大量の果物達がデザートになって出てきます。


冬になると夕食の時間(16時半)には既に太陽は沈んでいて暗いのですが、スウェーデン人はライトをつけることよりもロウソクを好んでつけます。普段の生活の中にロウソクがとけ込んでいて、街のスーパーでも大量に売られています。


木工房です。古い建物の為、柱があるなど不便な点もありますが、15,6人の学生の作業ベンチが並んでいます。隣に機械加工室があります。


引き出しの為の蟻組み(ありぐみ)加工中です。同じリズム、同じ角度で刃を入れられるようにまとめて加工します。


時計の文字盤を製作中です。象眼(薄い木で模様を描く技術)作業をしている所で、この後に真鍮(しんちゅう)から削りだされた数字が埋め込まれます。この時計は、ストックホルムでは100万円を超える値段で売られています。


一年生が作った動物のおもちゃです。前後へ動かすことで頭、脚と尻尾が動きます。


カール・マルムステンがデザインした戸棚 Lillboです。材料は桜にシェラックと蜜蝋で仕上げています


学生がデザインして製作した机と、マルムステンの椅子です。学生達はマルムステンの家具を作ることも出来ますし、本人が希望すれば個人的なプロジェクトを続けていくことも出来ます。


これもやはり学生が製作したマルムステンのモデルUndantaget。日本語にすると“例外”という、ちょっと変わった名前です。


マルムステンの丸テーブル、Lappsilverです。北欧に住んでいるラップ人(サーメ人)の文様が彫り込まれています。


園芸科の講義室のある建物です。奥には今年、新しく完成した温室が見えています。3月初めから園芸科の新年度が始まったのですが、最初の課題は木について調べることだそうです。


小さなリンゴの木が見えています。奥にあるのは夏の間、様々な苗を売る陳列台です。すぐ近くにはブドウの木が生えていて、熟した頃に摘むと美味しいです。


秋になるとコスモスが咲き乱れます。学生達は果物や花たちを摘むことができるので、収穫の時期は食卓の彩りが良くなります。


カペラゴーデンのハーブ園には様々なハーブが植えられていて、夏のピーク時にはかなり強い匂いが漂います。これは日本語でなんと言うのか分かりませんが、スウェーデン語でSockerrotというハーブです。夏の終わりに花が咲きます。


リンゴ園内に放し飼いになっている鴨やアヒルたちです。カペラゴーデンの園芸科では食材になる野菜、果物やベリー類を大量に栽培しています。全て無農薬有機栽培で、食堂や寮から出た残飯などはコンポスト(生分解をさせて土にする処理機)を通した肥料にしています。


収穫期に並べられた様々な品種の人参です。リンゴの木も世界中の品種が植えられていて、名前を覚えきれません


園芸科の貯蔵庫の1つ。保存の効く果物、野菜達はこの中に保管されます。2月になっても秋に採れたリンゴが食べられるのは嬉しいものです。


学校近くの教会にあるカール・マルムステンのお墓です。普通のお墓は石が大部分ですが、これは木で出来ている彼らしい碑です。1888年12月7日生まれ、1972年8月13日に亡くなっています。


木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!