MENU

スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2003.08.06

第6回 カペラゴーデンのサマーコース

こんにちは、須藤 生です。先月、ストックホルムへ引っ越しました。南スウェーデンのエーランド島とは環境が大きく異なりますが、だんだんと生活にも慣れてきました。これからはストックホルム市内の事もレポートしてみようと思います。ということで、今回のレポートがカペラゴーデンでの経験に基づく最後のレポートになります。

スウェーデンの様々な学校では、夏休み中にサマーコースを開催しています。かなり多様なコースがあり、カヌーやヨットを作るコースまであるほどです。もちろんガラス吹きのコース、スウェーデン語などの語学を学ぶコースもあります。僕の在籍していたカペラゴーデンでもサマーコースを開いており、スウェーデン国王が見学しに現れる事もある、長い歴史を持っているコースです。

本科の学生は本来、夏休みになると実家に帰るなど校内から出ていかないといけないのですが、僕らは子供が生まれた関係上、一ヶ月ほど残らせてもらう事が出来ました。その間、僕は学校内の椅子の座面を張り替えたり、子供の為のベビーベッドを作りつつ、サマーコースを見学してみました。コースの内容について、詳しく述べすぎると、いずれ参加する方にとって楽しみが半減してしまうかもしれませんので、控えめに紹介しようと思います。

6月前半から8月後半までの長い夏休み期間中に、2週間のコースが2回と、1週間のコースがあり、その年の初春に参加者募集が始まります。サマーコースとはいえ、基本的な理念、授業の進め方は本科のコースと同じです。僕もそうでしたが、このサマーコースを体験して本科への入学を決心する者もたくさんいます。

今年を例に、簡単にコースを紹介します。
2003年度カペラゴーデン・サマーコース
・コースA(2週間)
木工
テキスタイル
陶芸
風景画

・コースB(2週間)
1700年代の木工
テキスタイル
陶芸
水彩画

・コースC(1週間)
木工旋盤
テキスタイル
ガラステクニック
椅子座面張りテクニック

各コースとも、それぞれ10人前後が1クラスになります。参加者は本科の学生と同じように校内に宿泊し、食事をすることが出来ます。学生寮は古い農家を改装した建物で、部屋ごとに家具が用意されています。全ての部屋のインテリアは異なっていて、過去の学生が製作した物がたくさん残っています。二人部屋、もしくは1人部屋を選ぶ事ができます。

参加希望者が多い場合、クラス内に様々な年齢層、出身、経験の者が含まれるように編成されます。本科でもその様にしていますが、自分とは違う知識、経験、考えを持っている者が周りにいる事は、とても良い刺激になります。スウェーデン人の学生にとっての日本人の学生は、例えば異文化からの者とか、日本の道具の知識がある、などでしょうか。

期間中の食事は、3食ともカペラゴーデンの食堂で食べる事が出来ます。園芸科の畑から採れた食材を含め、様々な料理が振る舞われます。もちろんベジタリアン向けの料理も提供され、アレルギーなどの問題がある場合は、事前に申し出ておく事で、それを考慮した料理を用意してもらえます。

2週間コースの場合、期間中の土曜日にはカペラゴーデンがバスを用意し、スウェーデンの夏のリゾートであるエーランド島見学へ出かけます。島の自然や歴史文化を知る事ができる企画が考えられています。日曜日や暑い日は、作業中でも連れ立って海へ泳ぎに行く事も。実際、僕が参加した時には水着を忘れないように!との連絡がありました (笑) 。エーランド島は、スウェーデンで晴れになる確率が最も高い地域だそうです。

サマーコース中の一日の流れはこの様な感じです。
7時30分 朝食
8時   朝の集まり
午前中の作業
12時   ランチ
午後の作業
17時   夕食

日中の作業時間に講義が行われたりもしますが、基本的には物を作る時間が中心です。物を作る事を通して学ぶという、カペラゴーデンの考え方に則しています。夕食後も希望する者は作業を続ける事が出来ます。実際は休憩を少ししてから、ほぼ全員が工房へ現れます。

各コースの講師の先生方は、カペラゴーデンの本科の先生、もしくはそれに準じた方々が担当します。いずれにせよ、芸術家など素晴らしい経験・技術を持った講師が揃っています。各講師と共にカペラゴーデンの学生が一人、助手としてサポートします。彼らからカペラゴーデンの情報を聞く事も面白いかもしれません。講義自体は全てスウェーデン語で行われます。日本からの学生にとっては一番辛い時間でもあるのですが、先生、助手、そして他の受講者たちはほぼ確実に英語を話す事が出来ますので、質問すると何でも教えてもらえます。

2003年度を例にすると、費用は2週間のコースで二人部屋だと6,800クローナ。個室だと8,000クローナで受講料、宿泊費、食費全てが含まれています。現在のレート、1クローナ15円くらいで計算すると決して安くはありませんが、ここで経験出来る時間というのは、他とは比べる事の出来ない素晴らしい物であると思います。

では、いつもの様に写真を見ながら話を進めていきましょう。

サマーコース開催中、本科のコースは夏休みですが園芸科はまだまだシーズン中です。たくさん訪れる観光客向けにカフェを開いたり、校内の手入れなど仕事が盛りだくさんです。この壁はエーランド島で採れる石を積み上げています


カペラゴーデンは、カルマルという最寄りの街からバスで約40分の所にあります。道路標識にもちゃんと表示されていて、夏は観光スポットとなります


校内にあるハーブ園の広さは、南スウェーデンで最大だそうです。実際、様々なハーブと共にとても綺麗な庭がつくられています。ピークの時期には花たちから香る匂いでむせそうになるくらいです。観光スポットになる大きな理由です。


サマーコースの初日はお互いの親睦を深める為に、各コース混合でグループに分かれて課題が出ます。今回は夕食のテーブルセッティングの為のテーマが指示されて、各々のアイデアで装飾しました。材料は校内の物。このグループは、石壁から石を持ってきたようです。


この時期にちょうど咲き乱れていたポピーの花たちを使っています。


なかなか面白いグループです。全てが逆さになっています。


これは木工科の一日課題です。まず、様々な単語が書かれている紙片を一人3枚ずつ選び取ります。先生を含め、他の者にはお互いの単語カードの中身は秘密です。その3つの単語から連想して、生木で椅子を作りなさいという課題です。例として、「消防士」「勇敢」「いたずら好き」「高層ビル」・・・


カペラゴーデンの特徴でもあると思うのですが、本人がやりたい事に挑戦することが出来ます。彼女の場合、僕が今までに発想した事のない豪快な作り方をしています。


この彼と、一つ前の写真の彼女は、カップルでサマーコースに参加していました。作品作りにも、お互いが良い刺激になるはずです。


カペラゴーデンの学生もしばしば行いますが、一枚の板の間に違う材種の木を挟む事でアクセントとしています。


彼女は木で花を作っています。ヤスリで花びらの形を整えているところです。


左はカペラゴーデン本科とサマーコースAの先生です。椅子の製作を希望した受講生と手順の確認を行っています。シンプルなデザインですが、彼は夜も作業をしながら短期間で作り上げました。


カペラゴーデンの学生もしばしば行いますが、一枚の板の間に違う材種の木を挟む事でアクセントとしています。


その一例です。


制作を始める前に糸の準備をしています。


足でペダルを踏み、手でシャトル(横糸を通す道具)を通して模様を織っていきます。


天気の良い日には、この様に庭でおやつになります。


染めの実習中。草木染めなどを教わります。


週末は観光バスに乗って皆でエーランド島観光へ。これはかなり古い教会跡です。祭壇は整備されています。


エーランド島は風車の島と言って良いほどたくさんの風車があります。今は使用されていませんが、畑から採れた麦などを、風の力を利用して石臼を回し、粉を挽いていたようです。エーランド島内には高い山が無いので、風車にとっては良い条件です。現在は近代的な発電用の風車もたくさん設置されています。


島内最大の街、ボリホルム近くにある城跡。手前に見えるコンクリートの羊は車止めです。ただのブロックよりずっと感じが良いですね。


城内で芸術家の作品展示会を行っている事もあります。Roxette ロクセットの女性ボーカル、マリー・フレデリクソンは、度々ここでコンサートをおこなっています。


朝食後、8時から朝礼の様な集まりがあります。園芸科主催だったり、他のコースが担当したり、画家の先生が即興で絵を描いたりなど様々です。この日は園芸科の先生がカペラゴーデンの庭を案内しています。僕が参加した年には、皆で野いちごを摘みました。


また、ある日は陶芸科で。


これは絵のコースの学生主催の朝の集まりです。なんとなくお分かりだと思いますが、大きな絵の中から各々の好きな部分を選んでいきます。


選択した部分を切り取って、その絵について思う事を書いています


これは図書館の中で。朝の瞑想でしょうか。


僕のミスですが、陶芸コースを訪れた時にはすでに片づけが済んでしまっていました。窯に作品を入れる関係上、他のコースとはスケジュールが違っていたのです。あまり、お見せ出来なくて残念です。これは、たぶん向かい合ったお互いの顔を粘土で造形したのでしょう。


ちょうど窓際に置かれていた作品です。見学ついでに僕はここで生まれたばかりの息子の手形と足形を取りました。良い記念になりました。


絵のコースです。風景画が今回の大きなテーマでしたが、様々な手法で描いていました。


この様に普段から使い慣れている道具を使用したり、自然の中の物(例えば石の表面)を使って表現する事を学んでいました。


最後の金曜日は、この約2週間の成果の展示会です。皆の作品を持ち寄りレイアウトします。開会後、しばらくしてからパーティも開かれます。翌朝、展示会場は一般の方に公開されます。


ちょうど窓際に置かれていた作品です。見学ついでに僕はここで生まれたばかりの息子の手形と足形を取りました。良い記念になりました。


ジャガイモのスタンプによる作品。


左に並んでいるのは、木工コースで製作したバターナイフ。


すぐ近くにある世界遺産の地域で描いたと思われます。


3つのコースの作品でひとつの食卓が完成。


木工コースの作品達です。


テキスタイルのコースで行われた染めの作品達。


木工コースの作品達です。


ドーナツのように見えます。敷かれている布にはシルクスクリーンでプリントされています。


3つのコースの作品でひとつの食卓が完成。


木工科で製作したナイフ達。まず始めに粘土を握ることで、どの様な形状の柄が手にフィットするかを学びます。


最終日。修了証を先生と助手から受け取ります。


最後のランチ。この日は普段と違い、ちょっと豪華なメニューでした。


デザートのケーキ。聞いてみるとこのイチゴは直前に園芸科の畑から摘み取られた物でした。


カペラゴーデンで僕が撮影した最後の写真です。3年間、ここで暮らして勉強してきたので、ちょっと寂しいですが、これからはストックホルムでの勉強がスタートします!


サマーコースの流れ・内容を簡単に紹介してみました。僕は1999年にサマーコースを受講しました。当時、僕にとっては生木を切りに森に行く事、手道具で穴を掘る事などから、言葉の壁まで全てが初めての経験ばかりで、とても大変でした。でも、3週間で(僕が参加した年は期間が長かった)たくさんの事を学び、感じ、知る事ができ、良かったと思っています。

サマーコースに参加した事でカペラゴーデンという学校を知り、ここで学ぶ事に興味を持つ事が出来たのも幸せな事でした。希望者全てが参加出来るとは限りませんが、ご興味のある方はぜひ参加してみてください。もちろん、見学に訪れる事も可能です。

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!