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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2003.11.12

第11回 第2製作課題 - マルムステンの机(中編) -

こんにちは、須藤 生です。先週に引き続きマルムステンの机の製作過程を追いながら、マルムステン校での学業を紹介していきます。前回もそうでしたが、やや専門的な記述が多いので気楽に読み進んで行ってください。過程よりも形が見えてくる後半の方が分かりやすいかもしれません。

さて、他の学年の学生は何をしているのでしょうか。2年生は実際の椅子から実測して図面を描き、製作するという課題中です。左の彼は、デンマークのハンス・ウェグナーの作品の中では珍しく合板を使用している3本足のシェルチェアを製作しています。


型を製作し、突き板を何枚も重ねて接着し、フォルムを作り出します。どのような椅子かは Three legged shellchair という単語を Google などで検索してみてください。すぐに見つかるはずです。


イタリアのジオ・ポンティがデザインしたスーパー・レッジェーラです。超軽量という名前通り、無駄な部分を極限までそぎ落として製作します。


今年とカリキュラムの違った、今の3年生が製作中の椅子です。これはマルムステンがスウェーデン国内で名声を得るきっかけになった“ストックホルム市庁舎の椅子”です。彼はこの市庁舎の為の家具デザイン・コンペで1等と2等を受賞するという華々しいスタートを切りました。


さて、テーブル製作の続きです。僕は突き板を切る為に、ナイフを使用する事にしました。これは天板に放射状に貼る突き板の準備をし始めたところです。


実は、3年前にこのナイフを2本購入してから使用する機会がないままだったのですが、ついに必要になる時が来ました。日本のナイフの良さを改めて実感しました。完璧な状態にナイフを仕上げたお陰で、切れ味もさることながら仕上がりも抜群でした。これは大まかな荒取りでしたが、綺麗に切れると嬉しいものです。(実際はこの写真を撮った後に失敗したので、これは今後の練習用としました)


写真撮影技術の集中講義がありました。講師はプロカメラマン。僕にとっては、ほとんど全て知っている内容でしたが、新たにスウェーデン語で単語を知ると新鮮です。この写真は初期のカメラから現代までの様々なフォーマットのカメラ達です。僕は初めて憧れのハッセルブラッドを触ることができ感動。


翌日はスタジオ撮影での考え方、方法を学びました。どの様に光を当てるか? 影を柔らかくするには? 光量計とストロボの連携など家具を綺麗に撮る為のテクニック、光を反射させる様々な方法はとても勉強になりました。


他の学科の学生がスタジオ撮影の講義を受けている間に、僕たちは接着剤についての講義を受けました。家具修復科の先生が講師です。写真は水とエタノールの水滴を木の上(数種類)に落とすと、どの様な違いがあるかを試した後です。奥にあるオレンジのボトルは、スウェーデンで一般的な木工用接着剤です。


撮影技術の講義の先生から撮影課題が出されました。期日までに家具の写真を撮影し、プロラボに現像に出してプリントするように指示されました。フィルムは全員同じ物を指定されています。自分たちで撮影のための準備もしなければいけません。僕は家具製作科の学生と2人で作業をしました。

彼は学校所有のジオ・ポンティのスーパー・レッジェーラを撮影。影をうまく見せるように照明を当てていました。


僕は自宅から地下鉄に乗って、学校まで椅子を持っていきました。カペラゴーデンにいる時に製作した“1917”というマルムステンの椅子です。彼は市庁舎のコンペティションで1,2等を獲得した翌年、今度は小さな一般家庭の為の家具デザインコンペにこの椅子と机を出品し、1等を獲得しました。

マルムステンのこれらの家具は模範的なデザインですが、様々な賞を獲ったことにより、Liljevalchsで開かれた展示会で“スウェーデンの家庭へ上品で良い家具を”という彼の理想と共に作品紹介をする事ができました。

僕はいかにして全体に均等に光を当て、影を消すかにこだわった為、奥の脚、座面にかかる微妙な影の処理に苦労しました。これはデジカメでテスト撮影をした物ですが、本番は現像待ち中です。


座面張りのコースの2年生です。ソファーの完成間近。


僕の製作している机に貼る24枚の突き板の加工開始です。まずは木目が異なる二枚を正確に接着し、今後の加工に繋げます。左側にある軸を支点とし、板を回しながら切断面を溝掘り用のカッター(ドリルのような物)で加工します。


固定具で押している板の下に24枚の突き板が入っています。そして、この切断面に接着される突き板用の曲線を加工します。機械にセットしてあるこの状態から刃の位置を溝の幅分ずらすだけで、全く同じアール(曲率)の曲線を用意できるはず、という理屈です。この辺りは難しいかもしれませんので、軽く読み流してください。


そのようにして加工した板(2つ前の写真の右半分)の上に、外周側になる突き板をセットします。この機械で、板の曲線よりも外側にはみ出している部分(24枚の突き板です)を削り落とします。


治具(じぐ。材料をセットする物)と適切な刃物を機械にセットして使うことで正確な加工が出来るようになりますが、加工よりも準備の方が圧倒的に時間がかかりました。


両方とも正しく加工が出来ていればピタリと一致するはずですが・・・


結果は想像以上で、隙間なく完璧に接着をすることができました。


今度は中心角が15度になるように正確に加工します。12枚で180度(半円)となるように、やはり正確な治具作りが求められます。もし、一枚当たり0.5ミリのズレだとしても、12枚を合わせると6ミリもの大きなズレとなってしまいます。理想は180度よりも左右1ミリずつくらい大きく作り、はみ出た部分をナイフや鉋で切り落とします。


予想以上に手間取り、なんと7回も(加工自体は5分くらいですが、並べてテープで留めていく作業は時間がかかる)やり直した後に、理想の半円を作り出すことが出来ました。中心部が少し浮いていますが、これから接着です。


一枚ずつ断面同士を接着し、最後の断面接着になりました。実はこの最後の3枚の写真は練習用とした突き板です。ここまでの加工をすんなり、こなしてきたように見えるのですが、実際は失敗もしていて、その材料を使って練習を繰り返しました。


次週も天板の突き板製作は進みます。思わぬトラブルもあって・・・次週をお楽しみに。

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

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 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!