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スウェーデン木工留学記
ストックホルム編
2003.11.19
第12回 第2製作課題 - マルムステンの机(後編) -
今週も、マルムステンの机の製作過程の続きをご紹介します。
ストックホルム市庁舎へ見学に行きました。1923年に完成した建物で、当時のスウェーデンを代表する芸術家たちが内装を担当しています。1916年に市庁舎の椅子をデザインしたマルムステンも担当者の一人です。名前が知られるようになってすぐの若者にこれだけ大きな仕事を任せたことは驚きですが感心もします。 |
市庁舎内の見学は通常はガイドツアーのみですが、予約をしておいた僕たちは裏口から事務受付内へ。 |
いきなり有名な“The Blue Hall青の間”です。ピンと来ないかもしれませんが、ノーベル賞の授賞式をする場所と聞くとどうでしょうか? もし、僕がスウェーデンの職人資格をマルムステン校で取得することが出来ると、任命式はここで行われます。 |
事務方の部屋が並ぶ回廊です。マルムステンの家具が並んでいます。 |
ツアーでは入ることのない一室へ。全てマルムステンがデザインした家具だそうです。椅子たちはグスタビン様式の影響を感じるデザインです。 |
市議会の議場へ入る直前の部屋。ここの家具も全てマルムステン。籐で編まれた座面の椅子は、つい先日に修復から戻ってきたそうです。 |
議場です。椅子と机は全てマルムステンのデザインです。マルムステンは一般市民向け(特に後年)の家具デザインにも力を入れていましたが、このように過去の時代からの芸術様式を残した重厚な家具もデザインしています。 |
Prince Eugenの間と言われるホールです。パーティで机を並べ、晩餐会などにも使用されるそうです。左の柱の奥の壁には、画家でもあったEugen王子がフレスコ画を描いています。 |
窓が見える側の席に座った人は外の景色が見えますが、窓を背にして座った人にも同じ景色が見えるように描いているそうです。 |
“The Golden Room”として有名な部屋です。左側の窓際には北欧の重要な史実が描かれています。 |
約2000万もの断片からモザイク画を形成しています。ここはノーベル賞授賞式時の舞踏会にも使用されます。 |
さて、天板の突き板製作の続きです。前日に半円までの製作が終了し、正確な半円とするための加工をナイフで行いました。真円とした接着面も完璧で喜んでいたのですが・・・ |
ここまでの段階は練習とはいえ完璧だったのでショックでしたが、重要なことを体験できました。それは「中心角15度を加工するところから、円盤にして接着する段階まで全てを同じ日に行うこと」です。2日にまたがった為にこの様な結果になってしまったのです。 |
悔しいのでもう一度!と思い、どれくらいの時間で同じ事ができるかに挑戦することにしました。お昼御飯を早めに食べてから、中心角が15度になるようにする加工からスタート。休みを入れないで黙々とテープで固定しながら断面の接着を続け、真円にしてプレス機へセットするまでちょうど3時間。工程に慣れてきたようで満足できる結果でした。 |
中心に微妙な隙間(他の部分よりも線が太く見える)が出来ていますが、先生曰く、どれだけ完璧な加工をしても必ずと言っていいほど隙間が空いてしまうそうです。ということで、隙間を無くす為の修繕テクニックを教わりました。溝を埋めるのではなく、水分と熱で木を膨らませて密着させます。 |
ついでにこの練習用ボードを使用して、正確な円を作り出す練習を行いました。裏側から穴(上には突き抜けない深さ)を開け、中心軸として回しながら加工します。練習用と言うにはもったいないほど綺麗な板が出来上がりました。 |
本番の作業を始めるのは月曜日と決めていたので、金曜日の午後はストックホルムの街を散歩する事にしました。随分と歩いたあとオークション・ハウスを発見しました。オークション開催前の一般公開日(入札をする前に品物の確認などが可能)だったので立ち寄ってみました。 |
絵画、ガラス製品や家具まで大量の美術、工芸品が展示されていました。前の写真はウェグナーの椅子と机でしたが、こちらの応接セットもウェグナーのYチェアーです。8脚セットで22万円から30万円の価格が付いています。競り次第ではこれより高くなる事もあるはずです。 |
イームズの椅子は6脚で約30万円。左にあるミース・ファン・デル・ローエのバルセロナ・チェアは、クッションの状態が悪い為か2脚で15万円と、考え次第では破格の安さです。 |
マルムステンの家具も複数展示されていました。これはソファーテーブル。僕が作っている丸テーブルとはかなり異なるデザインです。約8万円からスタート。展示されている物は僕には買えない物ばかり(今回のオークション・カタログでさえ3000円)ですが、見たり座ったりするのはとても楽しいです。 |
早くもストックホルムでは雪が降り、道路も冠雪してしまいました。そこで土曜日は早朝から僕の車のタイヤ交換を行いました。90年型のメルセデス・バスです。既に30万キロを超えていますが絶好調です。ストックホルムでは車はあまり必要ないので売ってしまおうと考えているのですが、なかなか買い手が見つかりません。でも、愛着もかなりあるので売れないのも良いかも。去年の夏にはこの車に生活用品を積んで2ヶ月間ノルウェーからドイツまで旅行をしました。 |
そして月曜日。どの様に作業をするかをイメージしてから加工を始めました。風邪気味で体調が悪い中で集中し続け、8時間ほどかかって両面の接着までこぎ着けました。約30分の圧着の後、今度は裂ける事もなく無事に終了しました。 |
離れ業と思えたこのテーブル天板の作業でしたが、先生の的確なアドバイスもあり、満足できる出来になりました。今後は内側と外側の境の部分(写真では鉛筆で線を引いてある)に4ミリ幅の溝を掘り、他の木を埋めていきます。 |
さて、今回もかなり盛り沢山のレポートになりましたがいかがでしたか? 次回は完成間近のテーブルを紹介できたら良いなと思うのですが、どうなることか・・・
それでは、ヘイドー(スウェーデン語でさようなら)!
木工留学記
ストックホルム編
カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。
本になりました!
スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0
当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!