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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2004.03.03

第16回 製作、国際家具見本市、展示会、取材と大忙し(後編)

こんにちは、須藤 生(いくる)です。前回の家具見本市の翌日から今回のレポートは始まります。この見本市にあわせて取材に来た雑誌社の方々と一緒に行動し、案内をしました。後半では僕たちが製作した作品を紹介します。僕の机もようやくご覧頂けます。

国際家具見本市の2日目、日本から取材に来た方々の案内をしました。まず最初に向かうのはHV skolanというテキスタイルの学校です。ストックホルム旧市街近くからフェリーに乗り対岸へ渡ります。すぐ近くには世界最大の屋外博物館として有名なスカンセンや、遊園地などがあり、夏は一大観光地となります。水面に氷があり、フェリーはこれらをガツガツとかき分けながら進みます。


HV skolanは約120年の歴史を持つ学校で、工業化が進んだ中でも手織り、刺繍などの伝統技術を伝えていくことを目的に始まりました。全校生徒あわせて50人程の小さな学校で、最大で3年間、学ぶ事ができます。写真はギャラリーに吊されていたレース達。様々な家庭で大切に保存されてきた、いろいろなレースを集めて展示しています。中には100年以上前の物もありましたが、大切に保管されていた様で新品のよう。


ちょうど一年生の授業が行われていました。一年目は色や、素材など基本的な事柄をたくさん学びます。色について知る事は特に大事です。なぜなら学校で購入する糸は白と黒のみ。他の色は全て自分たちで染め上げて作らねばならないからです。もちろん街へ出て購入しても良いのですが、微妙な色合いの物を見つけるのはかなり困難です。先生は現役のテキスタイル・デザイナー。僕が在籍していたカペラゴーデンへも講師として染めやプリントを教えに来ます。この日に彼女がいる事を知らなかったので驚きの再会でした。


ここでは4メートル幅の織り機で長さ10数メートルになる大きな幕を織っています。デザイン画を見ながら少しずつ糸を通し模様を作り上げていきます。どの色が適当かを判断する為に何度も色合いを試してみるそうです。背後に同系色だけども微妙に違う糸が置いてあり、チェックできる様になっています。担当している彼女たちは卒業生で、職人として在籍しています。先生方は良い技術を持っている学生を常に探しているそうです。ちなみに、これはオスロ議会からの注文で1年以上かけて作っています。納品は2005年だそうです。


最上階にあるスタジオです。彼女たちも優秀な技術を持つ卒業生で、今は修復依頼のあった衣類の刺繍を治しています。王室関連の仕事をすることもありますが、これは教会からの注文です。このスタジオでは専属のデザイナーと共に新たな作品を作り出しています。例えば、デザイナーが考えた案を彼女たちが形にするという職人としての仕事をします。学校のHPはスウェーデン語のみですが、こちらです。


ストックホルムの高級店が並ぶエリアにあるマルムステン家具店にも取材に出向きました。1940年からマルムステンの家具を中心に扱っています。


キャンペーンの一環として作られた1人がけのソファー達です。エルビス・プレスリー、モンテカルロ・ラリー、マリメッコ、ウォール・ストリートからインスピレーションを受けてデザインされています。写真の2つはどれかすぐに分かりますね?


先ほどの物からも分かりますが、古いデザインと思われがちなマルムステンの家具でも、生地や見せ方、提案の仕方次第ではモダンな家具として通用すると思います。


このソファーテーブルは僕が作ったテーブルのオリジナルモデルです。約30万円の値がついています。マルムステンは“一般市民にも良質の家具を”という目的でたくさんのデザインをしましたが、大量生産家具が中心の現代ではそれでもかなり高価な物となっています。ただし、家具の質という点から見ると、決して高い物ではありません。椅子の張り地だけで比べても、生地の質、模様の選び方、しわ一つない高度な技術など全てが見事な出来です。

最初の投資は必要ですが、マルムステン家具は引越の度に買い換える様な物ではありません。全ての家具の図面、写真、資料は厳重に保存されていて、いつでも生地の張り替え、修理、さらにはオーダーをする事ができるようになっています。さらに、マルムステン校などでこれらの物を作る事のできる技術を持つ職人を常に生み出しています。極端かもしれませんが、永久保障体制(もちろん無料ではありません)があると言えるかもしれません。


この写真の机は弧を描いていて綺麗ですが、象嵌装飾が入っている事もあり200万円とかなり高価です。僕が在学中に作りたいと思っている物のひとつです。机に隠れている椅子は、マルムステンの名前が知られるきっかけになった「市庁舎の椅子」です。定期的な生産はされていませんが、特注や、マルムステン校の学生などによって作られます。


さて、こちらは僕の在籍するマルムステン校の展示場です。校内もオープンハウスになっていて一般公開されています。5日間の期間中は見学者が絶えず、予約を受けた団体客を案内していたギター科の先生は休む暇もありません。北欧各国からだけではなくヨーロッパからも見学者が訪れます。


もちろん日本からの取材陣は学校へも来ました。ちょうど僕の机を撮影しているところを撮影してみました。カメラに興味がある僕にとって、いろいろな質問をするには良い機会でした


その翌日、Hans J Wegner(ハンス・J・ウェグナー)の娘マリアンヌが学校見学に訪れました。彼女は建築家です。写真は製図中の僕たちの部屋へ来たところ。現在、3人の学生がウェグナーの椅子を製作しています。Yチェアー、ザ・チェアー、そして何度か紹介している3本脚の椅子です。彼女もそうですが、学生達も大感激だったそうです。


取材スタッフの皆さんと夕食に出かけた店です。普段、全くと言っていい程、外食をしないので良い店を知らないのですが、以前からちょっと気になっていたこのイタリアン・レストランへ入ってみました。外から見てすぐ分かるインテリアだけでなく、食事も想像以上に美味しく大当たりでした。でも、一番好印象だったのは店員さんの対応がとても感じ良かった事かもしれません。ストックホルム中心部に店はあり、一食2,000円前後です。(写真撮影 本田 恭子)


ここからは、校内に展示した僕たちの作品を紹介します。僕が作ったテーブルと同じく丸いソファーテーブルです。突き板を放射状に並べています。
作品名:Ölandsblommorエーランド島の花たち
デザイン:Carl Malmsten
製作者:Christopher Dorget,家具製作科1年
材料:突き板、無垢材は白樺。突き板に隠されている合板内の材は松(第10回レポートを参照)。
仕上げ:下地にシェラック。表面仕上げHartwax(ドイツ製。蜜蝋とカルナバ・ワックスを混合)


作品名:December Hertiginnan
デザイン:Carl Malmsten
製作者:Herman Palmgren,家具製作科1年
材料:構造材は白樺、突き板はマホガニー、合板内は松。
仕上げ:シェラック、デーニッシュオイル、Hartwax


これは他の作品と比べても分かるように、脚まですべてマホガニーの突き板で覆われています。シンプルですがひたすら下準備が続きます。脚を枠に接着した後に、また突き板で覆っています。突き板は約1.5ミリと薄いので、微妙な狂いだけで修正(ごまかし)が出来なくなるので気をつかいます。


作品名:Dr.Abrahamsson
デザイン:Carl Malmsten
製作者:Rasmus Malbert,家具製作科1年
材料:突き板、無垢材はブラジリアン・ローズウッド。一部に黒檀。
仕上げ:シェラック、デーニッシュオイル。


彼は、ほぼミス無く製作をした者だけがもらえるCMスタンプをもらうことが出来ました。この焼き印のついている家具は学校のリストに保存されます。彼はそれだけの仕事をし、さらに時間を費やしました。


これが学校のマークでもある焼き印です。


作品名:Spelbord
デザイン:Carl Malmsten
製作者:Emmeri Grenman Eriksen,家具製作科1年
材料:突き板、無垢材は洋梨。合板内は松。
仕上げ:シェラック、デーニッシュオイル。


天板はこの様に回転する様に支点があり、開くと2倍の広さの天板になります。名前の通り、トランプなどゲームをする為の机としてデザインされています。
※spelとはスウェーデン語でplayやgameを意味します。


これは、日本ではまず手に入らない高クオリティーの蝶番を作る職人に特注しています。2つで15,000円もしますが、ガタも無いしっかりした作りです。日本の加工技術ならば作る事も難しくないはずですが、需要がないのかもしれません。


作品名:Berg, Kapten H. Ström
デザイン:Carl Malmsten
製作者:須藤 生,家具製作科1年
材料:突き板、無垢材は白樺。天板のリングはローズウッド。合板内は松。
仕上げ:シェラック、ワックス(蜜蝋、カルナバ・ワックスと和蝋を配合)

僕の作った机です。1937年国立美術館の展示会の為にデザインされたBerg(山)テーブルの特注モデルです。Kapten(船長?機長?)の為に、マルムステンがデザインしました。


作品名:Three legged shellchair
デザイン:Hans J Wegner
製作者:Sander Aarts,家具製作科2年
材料:タモ突き板による成形合板。
仕上げ:デーニッシュオイル。

他の展示品から2年生の作品を一つ紹介します。この椅子には手加工の要素は少なくずっと工業的な製作法になりますが、見事に作り上げられています。このようにマルムステン校では、2年次に市場にある椅子を一つ選んで、実物から図面を描き、同じ物を作るという課題があります。僕はまだ何を作るか決定していませんが、春に皆でデンマーク旅行に行き、PP møbler社(ウェグナーの椅子を中心に製作)やフリッツ・ハンセン社(セブン・チェアーなどヤコブセンの家具が多い)などの見学をしながら、たくさんの椅子を見る予定です。


僕の自宅へも取材スタッフは来てくれました。あまり見栄えのしない部屋ですが、僕が今まで作った家具の撮影や、インタビューを受けました。写真は僕の作った器で遊ぶ息子の萌(もゆる)です。今回の取材記事の載る雑誌は4月発売予定ですので、その時にはまたお知らせします!(写真撮影 本田 恭子)

それでは、また!


木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!