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スウェーデン木工留学記
ストックホルム編
2004.04.07
第17回 特別講義連発
こんにちは!須藤生です。ストックホルムにも春が近づいています。現在は毎日、日の長さが計5~6分ずつ伸びているので、夜の長い冬と比べると大きな差を感じます。今回は家具見本市も終わった2月後半からで、前回と比べると話のネタが少ないですが、お楽しみください。
今回の製作課題“無垢材の家具”の製作を始める前に図面を描きます。マルムステン校はコンピュータを使用するCAD製図でも、手によるペン製図でもOKなのですが、今回は手で描くように指定されました。図面を自分で描く事による大きなメリットは、製作前にあらゆる問題点を見つける事ができる事。製作法の検討や構造の再確認など、その家具の中身を全て知る事で、その後の行程がスムーズに進みます。 |
ストックホルム市内にあるデザイン材料、書籍専門店に版権フリー画像集の見本カタログがあり、息子の遊び道具および絵本に良さそうなので一部もらってきました。予想以上に気に入ってくれたようです。 |
毎週金曜日午前はデッサンの時間です。この日の課題は白黒のみの水彩画。光や色をどの様に表現するかを考えるように指示されました。しかし、先生から“この様にしなさい”と言われる事はなく、人それぞれの表現の仕方を見る事ができ面白いです。 |
去年まで家具製作科の先生だった方の工房へ見学に行きました。現在の先生もこの方の教え子ですが、この工房で働いている人達にも元マルムステンの学生が多いようです。工房内は完璧に整理整頓されていて、僕の目標にしたいくらい良い場所でした。彼が作っている特注の戸棚にも感心するところがたくさんあって良い刺激になりました。 |
マルムステン校の地下にある材木置き場です。狭い部屋なので製作の度に材料を購入してきて置いておくぐらいのスペースしかありません。この部屋には材を大まかに切る為の丸鋸が備えられています。 |
今回僕の家具は白樺で製作します。木目(年輪)の詰まった綺麗な材を材木屋さんで選びました。いずれにせよ、それほど大きい物にはならないので、材料取りにそれほど神経を使わずに済むのは気楽です。 |
材によっては希望する木目で木取りをする為に、鋸で斜めに切る方法を選びました。その為には定盤(平面の出ている板)を傾けねばいけないのですが、マルムステン校の機械は集塵能力を高める為に改造されていて、それらの部品を外さねばなりませんでした。分解中に不具合部も見つけたので、ついでに清掃し調節しておきました。 |
2週間の期限でレポート作成の課題がありました。まずレイアウトから、図表の示し方まで大学で提出できるだけのレポートとはどういう物かを学びました。参考文献の書き方に、“ハーバート法”、“ケンブリッジ法”などがある事も初耳です。その後、各々が好きなテーマでレポート執筆をしました。例えば、去年作ったテーブルの製作過程について、17世紀のスウェーデンにあった職人システムについて、広葉樹と針葉樹について等々、調べる事柄は自由です。僕はデンマークの銀職人ジョージ・ジェンセンについて調べました。ストックホルムにある直営店で資料を貸してもらう事もでき、勉強になりました。 |
こちらは英語の講義。4回行われました。プレゼンテーション法、フォーマルな場での自己紹介、英語でのコミュニケーション等に大きく時間をかけました。もちろん皆はほぼ正しく分かっているのですが、注意点などを含めて再確認としての講義でもありました。毎回、宿題があり、先生への自己紹介文や、就職活動もしくは奨学制度出願の為の履歴書など、メールで送るように言われました。翌日くらいには修正付きで返事が戻ってきました。 |
これはスウェーデンで最近発行された切手です。鉋(かんな)、鋸(のこぎり)、ドリルが図案化されています。デザイン時に図柄が正しいかマルムステン校へ確認をしに来たそうです。 |
木工旋盤の実習を受けに、ストックホルムから3時間ほど北の街へ出かけました。木工旋盤とは機械にセットした木を回転させて刃物で削ることで、ろくろとも言います。水曜日の夕方に出発し、木金曜日に作業をして、金曜日夜中に帰宅する日程です。学校の旋盤をひとつ持参しました。車はレンタルしたボルボ。たった1000キロしか走行していない新車のV40でした。快適。 |
宿泊したユースホステルです。普通の住宅街にある小さな宿です。2人部屋と3人部屋に別れて宿泊しました。朝食付きです。 |
水曜日晩は皆で料理を作りました。道に迷ったりしてすでに22時過ぎですが、たくさんの野菜たちをナイフで切り分けクリームソースで煮込みました。パスタにかけると美味しかったです。ちなみに左の彼女は料理中ずっとキッチンにあったパズルに夢中。すでに2つ目に突入しています(笑)。 |
実習は講師の工房で行われました。真横に線路と小さな駅があるという、元々は駅舎だった建物を工房にしています。ローカル線なので、一時間に一本くらいしか電車は通りません。 |
8時頃から作業開始。なんと2日で20時間をこなさないと単位が認定されないとの事で、初日は夜23時まで作業をすることに決定しました。しかし、朝から僕は体調がすぐれず風邪をひき始めていました・・・・・・ |
まずは回転している木への、正しい刃の当て方の確認から。刃の当て方次第で表面を引っ掻く様に削るか、ナイフで切る様に削るかが決まります。もちろん僕らが教わったのは切る様に削る方法。正しく刃が当たると加工面の仕上がり具合に大きな差が出ます。 |
2種類の刃を使用して、平面や曲面の削り方を何度も練習しました。僕たち学生の旋盤経験は初めての者から、ある程度やった事のある者まで様々です。僕はカペラゴーデン在学中に何度か旋盤作業をするチャンスがありました。特に生の木を使ってお椀を作ったのは良い経験になりました。興味のある方はこちらをご覧ください。 |
僕の私感では曲面を削るよりも、面の切り替わりのアクセントにもなる“角(かど)”を狙った位置に持ってくるのが難しいと感じました。しかも正しい刃の入れ方をしないとドンッ!と反発があるので、慣れない内はドキドキしながら作業をしてしまいます。 |
僕は工房内にあった見本のロウソク立て(右側が上になります)をコピーしてみました。全く同じ物を作るのは難しく、手加減一つで削りすぎたりと失敗してしまいます。 |
作業場となった工房の機械場です。僕たちが持って行った旋盤を合わせて、1人1台ずつの作業スペースがあります。正面に見える大きな機械はドイツ製の木工機械で、鋸盤、フレース盤、手押し鉋、自動盤がコンパクトに一体となっています。 |
初日午後から僕の体調は急速に悪化し、夕食後20時に、一足早く宿へ戻り薬を飲んで眠りました。作業にも集中できず、失敗も多く気分的にはボロボロでした。翌朝は好調とは言えませんが、ずっとマシになり再び作業へ。何を製作していても良くある事ですが、一晩経ってからもう一度やってみると上手く出来る事があります。今回も正にそれで、前日に悩んだ失敗も問題なくなりました。写真は僕たちの練習作品の一部。手前右端、白樺の燭台が僕の作った物です。 |
お椀も作りました。材の加工が進む事による形状変化に合わせて正しく刃を当て、腕を動かし削り進みます。肩や腕に力が入っていると上手く出来ないので気楽にやるべきなのですが、なかなかそうはいかず力んでしまいます。 |
乾いた木を加工していますが、写真を見ても分かる様に正しい削り方が出来ていると、削りカスが糸の様に繋がって出てきます。間違っていると最悪の場合、刃が材に食い込んでしまい、ドンッと衝撃が返ってきます。お椀だとその衝撃で割れてしまい、皿になってしまう事も(笑)。2日間の集中実習は風邪をひいて大変でしたが、充実した時間を過ごす事ができました。 |
2~3年生は、国際家具見本市期間中に注文を受けた特別製の配膳盆セットを製作しています。合計で500万円を超える注文があり、3週間かけてまとめて製作中。数が多いだけあり材料だけでもすごい事になっています。 |
一時期は中断していましたが、毎年のようにマルムステン校の学生がデザイン、作成した物を販売し旅行費用などとしています。校内でいくつかのグループに分かれコンペティションをし、選ばれた物が商品化されています。 |
2~3年生が作業場を大々的に使っている間、僕たち1年生は特別講義の連続です。1週目はフォトショップ講座。でも特別な事をやるわけではなく、かなり入門向けの内容です。言葉がスウェーデン語なだけで、やることはかなり簡単でした。 |
講義の中で一番高度な技はマスクを使用することくらいで、皆、画像をいろいろ加工して楽しんでいました。僕は最初の2日間は旋盤実習の時の風邪が続いていて、残念ながら欠席しましたが、休んで良かった♪というのが正直な感想です。 |
今年のマルムステン校紹介パンフレットです。学生、道具、製作した物の写真をふんだんに使用して良い感じに仕上がっています。家具製作科のページには僕が写っています。 |
さてさて、前回のレポートで少しお知らせしましたが、僕の事が紹介されている“スカンジナビアンスタイル”という雑誌が発行されます。家具見本市、マルムステン校、家具店、HVスクール(前回レポートしたテキスタイルの学校)についても多くのページを割いて紹介されています。ぜひご覧になってみてください。4月28日水曜日発売です。 |
このJDNレポートを書き始めてから、既に1年以上経っている事に気づきました。当初はマルムステン校に合格しなかったらすぐに打ち切りかなあ、と心配だったのですが、なんとか僕のストックホルム生活を紹介し続ける事ができました。忙しい日々ですがこのレポートは続けていきたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。
ではまた次回!
木工留学記
ストックホルム編
カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。
本になりました!
スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0
当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!