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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2005.03.02

第31回 ストックホルム ファニチャーフェア 2005!
 学生、若手デザイナー編

こんにちは!スウェーデンの須藤です。今月はいつにも増して盛りだくさんのレポートです。先月から使い始めたカメラに夢中で撮りまくりだったからですが、内容はちょっとした資料にもなる様にまとめてみました。

今年も2月9日から13日までStockholm Furniture Fair(ファニチャーフェア、家具見本市)が開催されました。家具関連企業やデザイナーが新製品を発表し、展示する場として重要視されている大きなイベントです。また、家具関連ビジネスに携わる人(例えばバイヤーなど)にとっては大事な商談の場になる為、会期中、最初の4日は一般の方は入場できなくなっています。

そして僕は、今回初めてプレス(報道関係者)として会場を訪れました。もちろん、僕が在籍しているマルムステン校も出展していますが、JDNのプレスとして入場証を得る事で、撮影や取材もスムーズにこなせる様になりました。

5日間全てをプレスもしくは出展者として会場を回り、さらに取材する事を通して多くの事を学ぶ事ができました。将来、自分自身でこの様な場に出展するような場合、どの様にするべきか経験できたことが一番有意義でした。出展者としての立ち振る舞いや、用意するべき物、メディアへの対応なども非常に参考になりました。

そして最もエキサイティングだったのが、将来へのチャンスの一歩を掴んでいく人たちを見られた事でしょう。このファニチャーフェアは企業の展示エリアだけではなく、学生や若いデザイナーの為のエリアにも力を入れていて、会場内で一番面白い場所だと僕は思っています。初日から派手に注目を集める人や、メディアから取材を受ける人、トップデザイナーや企業から直々に商品化の話を受ける人などを目の当たりにする事は、僕にとって非常に刺激的でした。

何かをアピールしたい皆さん、積極的にこの様な展示会へ参加してみる事をお勧めします。得られる事はとても多いはずです。

去年からスタートした、入場口近くに設けられている招待デザイナーの展示。初日まで詳細は秘密になっていましたが、去年の展示が素晴らしかったので今年も期待していました。


今年はフランスのRonanとErwan Bouroullec兄弟が展示を担当。まず最初に驚いたのがしっかりとしたキャリアを築いているにも関わらず、すごく若かった事でした。


展示スペースを仕切っているカーテンTWIG。横に張られたワイヤーにこの様な無数のパーツが引っかけられています。家庭よりも商用スペースに相性が良さそうです。


Vitraが販売する彼らの作品。食卓としても、オフィスとしても使用できる事を提案していました。


そして今回のもう一つの目的。“息子を連れてデザイン家具で遊ぶ”という計画を実行に移しました。

まずは冒頭で述べた若いデザイナーや学生などのブースが多く集まるGreen Houseを紹介します。ここでは基本的に、未発表でまだビジネスとして話が始まっていない物が展示されています。出展費はミラノなどと比べて格安で、さらに学校の展示は出展無料という好条件です。


デンマークの5人組 REMOVEの展示。コペンハーゲンを中心に精力的に活動しています。これはThomas Bentzenのデザインしたスツール。成形合板を中心部で接合しています。


こちらもデンマークから。Jakob ThauとJonas Trampedachのワイヤーチェア、“The Copenhagen Chair”。昨年、デンマークのメディアでかなり話題になったそうです。


この椅子の素晴らしさは、完璧に近い収納性。スタッキング(積み重ねること)した状態でも、ほとんど必要な容積が変わりません。輸送にも非常に適しています。ただ、横方向への耐久力が気になります。


デンマークのArhusを拠点にするインダストリアル デザイナー(工業デザイナー)のHenrik Soerig Thomsenの出展。展示スペースは非常にシンプルでしたが、やけにグラフィックのレベルが高いと思っていたら結構な実績ある人でした。


音響機器のメーカーとして有名なデンマークのBang & Olfsenから、彼がデザインした物が幾つも商品化されています。Beocomといえばお分かりでしょうか?


今回は日本からの出展も目立ちました。酒井さん(R.I.O)の自然を感じさせるモチーフで出来た椅子やランプ。とても可愛い。ぜひ、庭に置いてみたい。


藤本さんと酒井さん(Kram Design)の犬と一緒に暮らす生活の一提案。


熊本直樹さん(Kumakura Furniture Products)の展示。トラス構造になっているフレームが特徴の“Truss Mania”を発表。ランプの影の見え方も綺麗。マルムステン校の展示ブースの目の前に位置していたので、色々な方からのコンタクトを受けているのが見えた事が印象的でした。


僕の印象ではこのGreen House内で一番注目を集めていたのが、このVINTAの3人組の展示。パッと見て、何か分からないので気になるという事もありますが、コンセプトがとても面白い。

これは傾いたまま一時間に一回転する時計になっています。正確な時間を知る事は出来ませんが、感じ取るという発想です。僕にとっては造形(高度な挽き物の技術)にも非常に興味をそそられました。もう2つの出品があり、それもまた面白い。残念ながらスポットライトが強力で、上手に撮影できませんでした。僕の撮影技量がまだまだという事なのですが、彼らのHP上でバッチリご覧いただけます。

日本での展示でチャンスを掴み、ストックホルムへ来て、さらにステップアップして行く様子はとても興味深かったです。


もう一つ、僕がかなり興味を持ったのが柳原照弘さん(Isolation Unit)のPrepregという素材を使った椅子と机。カーボンファイバーの一種で工業的には既に使われていたそうですが、家具の材料としては一般的ではないそうです。今回はこの素材の可能性を示す為に極限まで薄くした椅子を持ってきたそうです。厚さ4ミリ。さらに1ミリ厚くするだけで余裕たっぷりな強度になると聞いてビックリ。女性の髪の様な素材表面の質感を見せる為に無塗装です。展示品はまだ試作段階のようですが、今後が楽しみです。


今回のファニチャーフェア主催側は、このGreen House内から20の作品を選んでミラノサローネにGreen Houseとして出展するという秘密の企画を持っていました。そしてこの椅子もイタリア行きが決定。

さらにFORUM誌がファニチャーフェア全会場全ての家具の中から選んだ20作品のひとつにも選出されました。うーん、素晴らしい。


デンマークで活動する高橋ゆり子さんと、スウェーデンで活動中の須長 檀さんの展示。須長さんは年齢だけではなく僕とバックグラウンド(経歴)がとても似ているので、いつも気になる存在です。これは堅く乾いた革(正確には巻いてから乾いた革)が巻かれている椅子。革の雰囲気が分かる様に写真を明るくしてあります。


高橋さんの照明。去年はツイスターというスツールが商品化されていました。


Green House内では照明の展示もたくさんありました。これは時園 勇さん(Brave Design)の孔雀ランプのシリーズ。最初は突き板(合板などになる薄い木の板)だけが素材かと思いましたが、ポリカーボネイト板の両面に突き板を貼ってありました。こうする事で板の間を抜ける光と、木の色の暖かさが重なってとても美しい。非常に僕好み。


こちらはフィンランドのKonna Designのランプ。アプローチは似ていますが、光り方は異なります。アクリル板をレーザーカットしています。


Chandra AhlsellとAnna Holmquistの二人で活動するFolkformのランプ。アクリル板をレーザーカットし、フォルムを作り出しています。輸送時の形態から、組み立て方法等まで紹介していたのは好印象。この6月に卒業を控える芸大の学生です。


こちらも3人の現役芸大生による出展。象眼(様々な素材を用いて文様を作る技術)の施されている古い家具から考えたという、Maja Kinnemark(HDKのデザイン科)のマット。さすがに素材は木ではありませんが、とても面白い。


ランプを使った遊びから思いついたPernilla Janssonの照明。彼女は陶芸とガラス専攻なのですが色々な事に興味があるようで、今年は芸大(Konstfack)を休学して創作活動をしていたそうです。


ここからは学校の展示を紹介します。
まずはHDK Steneby。木工だけではなくテキスタイルや皮革、金属のコースも有しています。家具製作科では高いレベルの技術を学ぶ事が可能で、ここで学んでからカペラゴーデンやマルムステン校へ志願してくる者も多いです。
http://www.steneby.se

観葉植物などを置ける様になっているJohan Karlssonのカエデ材の机。右側は日本からの学生Takumi Yoshida製作の肘掛け椅子。


接合部がどうなっているか気になった曲げ木のフレームを持った椅子。このフォルムにする為の型の準備はかなり大変だったと思われます。Therese Alm作。


一番目立つ場所に位置していた子供椅子。Mia Korpiの卒業制作。可愛いけど簡単に子供が脱出(要するにちょっと危ない)できそうな気がする。パパとしての意見でした。


デザイン、芸術の分野でスウェーデン最高の学校であるKonstfackのブース。ここ数年は作品というよりも提案型の展示をしています。が、このブースは凄かった。


糊でしっかりと固めた糸を使って仕切りを作っています。非常に豪華かつ豪快なアイデアです。


展示内容は座る物のミニチュア。なのに、座っているランプ(僕の解釈)が並んでいたりして面白い(笑)。


デザイン分野(特にファッションで有名)でやはりトップの学校であるBeckmansの展示。ここは巨大校のKonstfackに対して、僕の所属するマルムステン校の様な少数精鋭の学校です。1年生に日本人が在籍している事が今回、分かりました。ぜひ見学しに行こうと思っています。

写真の奥に見えるのは標識にもなるAnnika Lindroosの光の道しるべ。

左に見えるのは覆いを様々な形態に変化できる発光ダイオードを使用したランプ。ベランダや庭での使用を想定したJarl Fernaeusの作品。


ストックホルムのKonstfackと並んで、やはり高い評価を得ているヨーテボリにあるHDKの展示。デザイン科以外にも陶芸、アクセサリー、テキスタイルなどのコースがあります。今回のテーマは“ファニチャーフェアへの愛”。

このKarin MobergのランプUrban Shimmerは点灯すると図柄が浮かび上がる2重構造になっています。様々な物に隠されている日常の美しさを表現しているそうです。


一番人目を引いていたFrederik Kjellgrenの二人の為の寝椅子Parabolic Love。そしてStina Lofstrandが豪華なクリスタルではなくお互いの腕を繋いだ人の形をしているフェルトを使用して作ったランプWe Need Each Other。これらは非常に見栄えが良く、メディアの注目を集めていました。

ここの展示を見ていて感心したのが、説明をしてくれた学生の機転の早さでした。近くにテレビ取材クルーが来ているのを察知すると素早く、近くにいた女の子に“ちょっとここで横になろうよ。”と一声。韓国からの留学生の彼女は照れながらも写真の状態へ。そして通りがかった撮影隊は彼らを発見。バッチリと彼の思惑通りになっていました。


僕が3年間在籍していたカペラゴーデンの展示。現在僕が学んでいるマルムステン校と並んで、家具製作に関してはスウェーデンで最高峰の学校です。


これは3年生のAsa Ingardaが多くのスウェーデン人が所有する小さな別荘向けに提案するキッチン関連の家具。古い別荘を購入した人の多くはノミの市やオークションでお手頃な価格で古い家具を探し求めるそうですが、この家具たちは1900年代初頭の家具のスタイルを損なわないように、現代的で機能的な物として新たにデザインしたそうです。非常に良い評価を得たそうです。扉の文様はウォーターカットでくり抜かれています。


ノルウェーから来た女の子が製作したカール マルムステンの“市庁舎の椅子”。製作が非常に難しいにも拘わらず、彼女は二脚同時に作り上げました。


Johanが素早く作る事を目標に製作したリビング用の家具。シンプルな構造とはいえ、椅子一脚あたり20時間、机10時間という素早さ。彼は今年、職人試験に挑戦しています。


これもマルムステンの代表的な椅子Talavid。2年生のAndreas Peterssonが製作しました。左の座面を覆っているのはJosef FrankのNipponという柄のテキスタイル。市庁舎の椅子と共にマルムステンの家具は大量生産品と異なり、手作業を多く強いられます。これだけのレベルの物を伝え、教える事が出来る学校がある(残念ながら今の日本には無い)のは本当に素晴らしい事です。


そして僕が在籍中のCarl Malmsten CTD。木工を学ぶなら文句なしにスウェーデン最高の学校です。展示した物はほとんどが家具デザイン科(僕の在籍する家具製作科とは異なります)の物たちでした。

展示ブースはスクリーンで覆い裏からプロジェクターで校名を照射しています。他校もそうですが、僕たちもプロジェクターはHewlett-Packardというように企業からのサポートを得ています。


入り口に訪問者を迎える様に置かれたデザイン科3年Moa Jantzeの揺り椅子。モダンなデザインに南スウェーデン独特の伝統文様を刺繍してあり、メディアから高い注目を集めていました。彼女の椅子はミラノサローネへ選抜されました。ちなみに写真のモデルは見知らぬ方。ポーズを取ってくれました。


入り口に5つ並べた戸棚。これまでも紹介していますが、ミラノ旅行の費用を稼ぐ為に200個製作した物です。あと40個をこの会期中に売り込みました。僕も土日の10時間ほど展示説明を担当し、非常に良い反応を得られました。マルムステンの知名度を思い知らされるほどの訪問者でした。


デザイン科1年生のAnna Leckstromの収納システム。レイアウトの変更や拡張が可能で、どの様な部屋にでも合わせる事が出来るというコンセプト。


デザイン科1年のAlexander Hokの椅子。カーブがきつすぎる様に感じていましたが、試してみると結構良い。


これもデザイン科1年生の作品。成形合板の加工をしに、よく家具製作科の作業場へ来ていたので印象に残っています。


デザイン科2年Mattias Karlssonのソファー。


家具デザイン科3年Daniel Josefssonがデザインした棚。色遣いが綺麗。


デザイン科2年のLinda Molanderがデザインした分割できる家具PLUS。


予想外にこれが僕の息子に大好評。登ったり降りたりと、かなり楽しそうでした。


1年生Sanna Lindstromの収納システムTORSO。図を描くのは苦労しそうですが、面白いデザイン。一つだけだとスツールやサイドボードとしてもちょうど良い大きさになります。


1年生Mick Bornの椅子LINE。スケッチで描く様なシンプルな線から考え出したそうです。初日にあるトップデザイナー(北欧デザインの最先端にいる)からいきなり商品化を持ちかけられました。そこから一気に評判になり、インテリア誌や芸大の学生がこれだけを見に来るほど。もちろんミラノサローネ選抜にも選ばれています。後ろ脚と座面の接合部の強度(現在はプロトタイプ)が気になりますが、今後の展開が楽しみです。


2年生のTim AlpenがデザインしたベッドGo Vertical。


この様に枕の部分がへこんでいる。彼はデザイン科在籍ですが、工作技術もなかなかで家具製作科の工房へ来て作業をしていました。すごい筋肉の持ち主でデザイナーとは一見、分からない(笑)。


そして、このベッドもやはり僕の息子の餌食に(笑)。枕で遊ぶのが最高に楽しかった様子。


会場の雰囲気をお楽しみいただけたでしょうか?次回は企業の展示を紹介します。今回紹介した展示とは規模、資金力も異なり、とても華やかです。では、また来週ー!

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!