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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2006.02.01

第42回 職人試験前、最後の作品

こんにちは!ストックホルムの須藤です。
この冬は例年と比べても随分と冷え込んでいるようで、凍えるような日々が多くなっています。ただし建物の断熱はちゃんと成されているので、屋内にいる限りは暖かく暮らせています。
さて、今回は前回のレポートよりも少し遡って、夏休み前の話題について紹介します。ちょうど一年前の今頃から作り始めたのが、職人試験の受験前、最後の製作課題でした。この課題では職人試験で必須とされる技術を全て含んだ物を作ります。要するに受験前の実力試し、およびトレーニングという事ですね。必須技術とは、引き出し。扉もしくは、それに準ずる物。蝶番(ちょうばん、ちょうつがい)、鍵などの金物。蟻組み(引き出し前板など)。突き板を使用した合板の使用図面作図などで、手加工が求められます。過去の作品(もちろん技術条件を満たしている物)を作る事もOKですが、僕はオリジナル作品を作る事にしました。当然ながら最初はアイデア発案から始まります。
注:この製作中は他にも色々と忙しく、時間的にあまり余裕がなかった為、写真を多く撮る事が出来ませんでした。ご了承ください。

簡単な図。3区画の収納スペースを備える家具を考えました。例えば一カ所が扉で、一つの引き出しと、もうひとつの収納スペース(扉や引き出しは無し。)という感じです。


ふと思いついたのが、赤線の部分を消す事。この部分は段々になりますが、収納スペース代わりに使用する事は可能です。また、背の高い物も置けるようになりました。


ダンボールを使って簡単なモデルを製作。スケッチからは分かりづらい、ボリューム等を把握する事が容易になります。


CADを使用してA0で作図。手描きでも問題ありませんが、僕はCAD製図を選びました。


立体図をモデリング。360度、全ての方向に回しながら見る事が出来るので便利です。


製作開始。まずは材料取りから。使用材は白樺とサクラにしました。白樺(内装全般)はいかにも北欧というイメージ。サクラは以前に製作した椅子の材料が残っていました。


合板製作の為の心材の用意。この辺の事は第10回レポートあたりに詳しく書いていますので、ご参考ください。


心材用の棒たちをまとめる。


心材の木目と交差する方向に貼る突き板。心材の動きを押さえる様な役割があります。


突き板の幅を広くする為に接着。


接着面に圧が加わるように、反らせて15分ほど固定。


それを心材に接着。


両面同時に接着をします。


プレス機へ。30分も圧を加えれば十分ですが、余裕がある時は1時間くらいそのままにしています。


板の周りを縁取る無垢材を接着。


板の厚みより少しだけ厚くしてあるので、鉋等で平面に削ります。


接合部。この部分はビスケットジョイントを選びました。


取り外し可能な板を支える真鍮棒の為に穴開け。


これは脚部を加工中。


注文しておいた金物を受け取りに、金物師の工房へ見学に行ってきました。これまでに作った物たち(余分に作った物)がたくさんあり、今後の為にと思い、大量に買い込んできました。


これは両開きの扉で片方の扉を固定する留め具。


扉の蝶番。


取っ手。右の物はアルミ製ですが、内部に磁石が入っていてピタリと固定されるようになっています。


鍵。


様々な形状の蝶番たち。


これが僕の注文した蝶番。金物師の彼は医療用の特注部品を作る事を専門としているのですが、当然ながら家具金物も驚異的な精度で作り上げてくれます。日本ではまず見つからないと思えるほど良い出来です。


これが僕の注文した蝶番。金物師の彼は医療用の特注部品を作る事を専門としているのですが、当然ながら家具金物も驚異的な精度で作り上げてくれます。日本ではまず見つからないと思えるほど良い出来です。


ネジの向きを揃えて固定。


表面をヤスリで削り綺麗に整えます。ネジの溝が残るように加工する事がポイント。


背板は突き板を数枚重ねて接着し、板にしています。俗に言う、プライウッドです。


今回の家具の特徴でもある縁取り。溝加工をした後、黒檀を接着しています。


接着後に鉋掛け。すぐに刃が切れなくなるので、何度も研ぎながら作業を進めます。


扉は正確なサイズ合わせをこの時点で行いました。その後、表面の突き板を接着します。


鍵のメカニックを扉に埋め込み、鍵穴も同時に加工します。


本体と固定。


扉の4辺と本体との隙間が等間隔になるように取り付けます。


鍵のメカニックもヤスリで削り、平面にします。


鍵を閉めた時に扉が前後にガタガタと動く事がないように調整します。


あとは引き出しを残すのみ。


この時点でクラスメートのエメリーとラスムスは既に製作を終了していました。これはエメリーの作品。


4つの引き出しと、一番下にはちょっと変わった形状の収納スペースが用意されています。


収納例。でも、綺麗すぎて靴を入れるのはちょっと躊躇しそうです(笑)。


ラスムスの作品。


幅広の薄い引き出しが3段分、収納されています。スケッチなどの用紙収納を想定。


ラスムスの作品の一部ディテール。鍵穴の金物は、反っている正面形状に合わせて削ってあります。


蝶番。見えているのは軸受け部のみ。僕が使った蝶番よりも美しい意匠になります。


脚の接合部。角をこの様に加工する事は意匠としての側面もありますが、ピタリと合わさらなくても融通がきくという側面もあります。技術(悪く言えば誤魔化しの技術)を効果的かつ、上手に使う事は、物を作る者にとっては必須の要素です。僕の作品の特徴でもある黒の縁取りも、ある加工(ヒミツです)の手間を大幅に低減する事に役立っています。


引き出しの製作開始。まずは底板の幅を合わせてから、側板を調整。


前板との接合部を加工。


この引き出しは片側(正面からみて左側)のみに組み手が施されています。しかし、ここで問題発覚。Aの幅はBよりも広くあるべきだったのです。図面作図中に先生に確認した時は、OKと言っていたのに…。あとで聞いたら、“ゴメン、見落としていた…”との事。いずれにせよ、機能上は問題ありませんが、意匠の点ではもうちょっと考慮するべきでした。


仕上げをして、ついに完成。塗装はデーニッシュオイル。3回ほど塗り重ねています。


いつものように校内に撮影スペースを用意し、撮影しました。休日だったのでゆっくりと作業ができて、快適でした。


ディテール写真たち。黒檀の縁取り。角でピタリと合わさるようにしています。


引き出しの取っ手。これも金物師に作ってもらった物。


鍵にピントを合わせて撮ってみる。


鍵。予備の鍵をまだ用意していないので、早く見つけておかないと…。


引き出し。次回への良い教訓となりました。


背中。ネジで板を固定していますが、正確には必要ありませんでした。無垢板ではないので、接着してあります。


脚部。デンマーク家具によく見られるデザインを参考にしてみました。しかし、接着時の締め付けはかなりやり辛かったです。


簡単な内容のレポートとなりましたが、いかがでしたか。過去のレポートと共にご覧いただくと、もっと楽しめると思います。

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 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

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 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!