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スウェーデン木工留学記
ストックホルム編
2005.12.14
第41回 家具職人試験が始まる
こんにちは!
現在、非常に忙しい毎日を送っています。良いリポートを書く為の十分な時間を確保するのが大変な状況です。すでに夏休み前の製作課題や、夏休み明けの現場研修の話など紹介したい事はたくさんあるのですが、それらはちょっと後にして今回は最新の話題について述べたいと思います。たぶん、このリポートをご覧下さっている方の多くが興味のある内容ではないでしょうか。
この秋から僕はカール マルムステン校の最高学年(3年)になり、入学時、最大の目標であった職人試験を受験する年になりました。職人資格は“その職種の基本的な技術を有している者”として、ヨーロッパ中で効力を持っています。が、スウェーデンの職人試験は他の国とは様子が異なるようだとも最近知りました。デンマークのような小国でさえ年間3万人(様々な職種)の新たな職人が生まれるらしいのですが、スウェーデンはなんと数百人のみ。スウェーデンでは仕事を得る為に、職人試験は必須項目ではないのです。実力試しというのが適当かもしれません。
そして、マルムステン校の学生が挑戦する職人試験は、もっと上の最高レベルの評価(口には出さないけど絶対そう)を目指します。北欧一、ヨーロッパNo.1、もしくは世界最高(口には出さないけど、きっと皆そう思っている)と言われる学校の評判(本当によく聞く)に沿うだけの内容を求められます。というわけで、僕にもちゃんと出来るか不安だったりする(笑)のですが、段階毎にでも紹介していこうと思います。
第4回リポートでもスウェーデンの職人試験について紹介していますので、参考がてらご覧下さい。
夏休み明けの8週間にわたる家具工房研修が終了し、翌月曜日からマルムステン校での3年次が始まりました。 |
この写真は午後17時頃にガムラスタン(ストックホルムの旧市街)で撮りました。23時頃まで明るかった夏と比べると、日がぐんぐんと短くなっています。 |
まず10月24日に始まったのがデザイン プロジェクトと名付けられたクラス。デザイン科の先生と共に職人試験で製作する物のアイデアから、課程、デザイン、図面、リポートをこなします。デザインは職人試験の評価項目ではありませんが、各々のアイデアに沿ってコメントをもらったり、アドバイスを受けたりします。もちろん学生同士でも何度も話し合いました。 |
当初、僕はちょっと変わった形状の物を検討していました。茶の部分が扉や引き出し、黒い部分が空間を示しています。 |
厚紙を切って様々な組み合わせを試み、帰宅してからも息子と一緒に、あーでもない、こーでもないと考えました。 |
当初から決めていた事柄は、“カメラを収納する物”でした。そこでレンズや備品などの実寸を測り、収納時のレイアウトを考えてみました。 |
ストックホルム市内にあるコンストファック(芸大)の図書館へ行き、資料を探す等の様々なリサーチをし、たくさんのスケッチを描きました。ある程度、形が見えてきてから実寸のプロトタイプ(模型)を作り、さらに案を煮詰めます。 |
これは僕がボリュームを確認する為に作った物。想像以上に大きい為、少しスケールダウンする事にしました。 |
こちらはラスムスのプロトタイプ。脚の太さ、フォルム、高さなど何度も作り直しては検討していました。 |
検討を重ねてきたところで、今度はゲストティーチャー(講師)のレイフを招いて、次の段階へ移りました。彼はマルムステン校家具製作科の前教員で、スウェーデンの木工界ではかなり有名な存在です。かなりの実力者とも聞きます。写真は何種類もの異なる脚を見せて、これまでの経緯を説明するエメリー。 |
過去の作品図面を見る。ここから様々なアイデア、ディテールを思いつく事も。 |
レイフによる職人試験の図面についての要点説明。提出する図面には作る物の全てが描き込まれるか、記されていないと減点対象となります。また、図面のレイアウト、線の美しさ、全体を通しての統一感も重要視されます。たぶん、この辺はスウェーデンの試験独特とも言えるのではないかと思います。 |
さて、少しだけ僕のアイデアについて。僕が作ろうと思っている物はカメラを収納する戸棚ですが、まずはこの二つのフィルムをご覧下さい。 |
片方はローライフレックスで、もう一つはハッセルブラッドで撮ったものですが、違いが分かりますか? ハッセルブラッドで撮ったフィルムには必ず見受けられる、ある特徴があります。 |
二つめの各写真の左端をよく見ると小さな三角形のノッチが見えています。これがハッセルブラッドによって撮られた写真という証明であり、典型的な特徴です。これは作品内にぜひ活用しようと考えました。 |
こちらはハッセルブラッド社のウェブサイトですが、右上の方にこの意匠が見受けられます。 |
カメラやレンズの大きさ、また使用時の予想から考え始めたフォルム。低めにする事で上面の板をレンズの取り替え時などの作業台と考えました。真ん中の扉は上か下に開いて収納するタイプも検討。 |
各々の家具に合わせて図面レイアウトやディテールの表し方を説明するレイフ。 |
簡単な図を描いてみる。 |
僕はもう一回、1/10サイズの模型を作って考えてみる。 |
次に材種や意匠を検討。フィルムをそのまま戸棚に焼き込んだようなイメージを、最初に思い描きました。 |
扉には僕が撮った写真を扉の全面に象眼加工(様々な材種の木を使い絵を表現する技術)する事も検討。こうする事で、扉の縁に先ほどのハッセルブラッドの特徴である二つのノッチを入れられます。 |
逆に中扉をなくしてみる。カメラを意匠の一つと考える。 |
象眼も無くし、逆にハッセルブラッドのマークを入れてみる。 |
こうして大体がまとまってきた全体像。色々と熟慮した結果、当初の予定より背が高くなりました。 |
職人試験の図面は手描きでもCAD作図でも問題ない(要するに図面の出来が重要)為、今回、受験する僕たち5人は全員、CADによる製図を選びました。これまでの学校生活で両方の製図を学びましたが、コンピュータを使用した製図に挑戦する事にしました。 |
これは僕の戸棚正面の意匠。ハッセルブラッドのマークが象眼で入り、枠部には2つのノッチも見えています。 |
こうして最後の2週間は一日中、パソコンとにらめっこ。朝8時過ぎに学校へ来て、20時くらいまで作業を続けました。エメリーなどは毎日22時頃まで残っていたようです。 |
僕が陣取っていた場所。自分のパワーブックを持ち込んで、コンピュータ室の高解像度モニターに繋げて使用しました。 |
他の皆はAUTO CADを使用しましたが、僕はMacで作業をしたいのでベクターワークスを使いました。 |
戸棚本体を描くだけではなく、作品中に使われる金具や象眼模様などの図面も必要です。これは構想初期での、取っ手。磁石の反発力を利用して飛び出す事を想定しています。 |
レンズなどを収納する引き出しの内装案。ハッセルブラッド用のレンズをこれだけ並べると、迫力がありそうです。 |
図面以外にもう一つ。作業工程表を書き出します。効率の良い工程を考え、各工程毎に必要時間を書き出します。審査時に作業時間が多すぎると思われると、少なめの時間を指定されます。 |
そして僕の場合、懸案事項であったのがこれ。ハッセルブラッド社のマークや意匠を使うので、許可を求める必要があり、本社へ連絡をしました。想像以上に良い反応で無事に許可をもらう事が出来、作品が完成した後にまたコンタクトを取る事となりました。スポンサーとして機材を提供してくれたら嬉しいなあ(希望的観測)…。 |
12月1日の提出日。前日は他の学生の分を手伝ったり(もちろん手伝ってもらったりもする)して、僕は日付が変わってからの帰宅でした。徹夜した者もいたようです。 |
家具製作科の教官(職人試験中の監督官にもなる)のサインをもらい、提出準備が整いました。 |
これは僕の図面。このA0サイズ(1189×841ミリ)図面以外に、9枚の図面と工程表を用意しました。 |
バスに乗って市内中心部へ。 |
提出の瞬間。かなりあっさりとしたものでした(笑)。 |
この頃、ストックホルムはすでに雪景色。太陽は15時前に沈んでしまうほどで、冬の様相がさらに深まってきました。これから年末にかけて材料の購入や準備をし、年明けから製作開始となります。 |
このリポートの準備中に、検査結果および評価が戻ってきました。評価項目はレイアウト、正確性、製図技術の3項目でチェックされ、評価は0.1点刻みの5点満点で採点(3点以上が合格)されます。 |
木工留学記
ストックホルム編
カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。
本になりました!
スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0
当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!