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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2006.06.14

第45回 スウェーデン最高峰の職人試験。(中編)

こんにちは!スウェーデンの須藤です。ワールドカップの開幕に合わせたかのごとく、こちらは夏の陽気となっています。夏至に向けて日が伸びていて、なんと日の入りは22時過ぎ。冬とは対照的に一日をすごく長く感じます。さて、今回は前回に引き続き、職人試験のリポートです。

各部材を正確な大きさに加工。板の下にもう一枚の適当な板を置くことで、裏側の突き板がめくれ上がるのを防いでいます。


合板の構造がよく確認できます。


接着部や引き出しレールなどになる溝を加工します。


切削前に突き板が傷つかないかを確認してから、本加工を始めました。状況によってはテープ(これだけでも突き板のめくれ上がりを防げる事もある)を貼ったり、先にナイフで加工ラインを引く(要するに、先に突き板を切っておく)などの対策が必要です。


写真では引き出しの出し入れで擦れる部分を加工しています。


中央部の二つは、引き出しの動きを制御するレールとなっています。幅広の引き出しを出し入れした事のある方ならば、出し入れ中に引っ掛ってしまう経験があると思いますが、このレールは引き出しの奥行きより狭い幅にし、この現象を防ぐ狙いがあります。もちろん、平行が出ていなかったり、ガタが多すぎれば効果はなくなるので、正確な加工が必要になります。

引き出しのスムーズな動きは、職人試験の重要な審査項目でもあるので、この戸棚の製作の中で一番難しい場所ともいえるかもしれません。


扉などに使う金具を埋め込みます。この部分には磁石が入り、扉のストッパーとして考えています。


ほぼ完璧に取り付ける事ができました。この後にネジ止めをします。


同じように扉の蝶番(ちょうばん、ちょうつがい)も加工。溝の端に約0.5ミリ分残してあるのは、扉と本体の隙間分と想定しています。


加工部に金具がピッタリと(吸い付くように)入るように加工しています。


ネジを取り付けますが、ネジ穴がずれていたり、斜めにネジが入らないようにする事がポイント。また、ネジ溝は木目方向にするのが美しいとされています。


ヤスリでネジの頭を削り、金具と同じ面にします。ヤスリにテープを貼っているのは、木の面を痛めないようにする為。切削の残りがテープ一枚分に近づいてから、テープ無しで仕上げます。


荒加工終了後。この後にサンドペーパー等で綺麗に仕上げますが、アルミや鉄の粉、今回はさらにWengeの粉がカエデの木目に入り込むと、かなり見苦しくなるので注意が必要です。蝶番とネジの色が違うのは、素材の違いから。同じ素材を使用するとネジの溝のみが残り、美しくなります。


本体の接着前に、内側は仕上げてしまいます。120番くらいの荒いサンドペーパーから始め、150、180、240、320、そして400番と細かい目の物まで、ひたすらペーパー掛けをしています。人によってはここからさらに1000番まで追い込むのですが、僕はそうはしていません。


この後、シェラック(天然塗料のひとつ)で塗装。2層ほど重ねて、磨いています。


この後、蜜蝋に和蝋とカルナバワックスを混ぜた、とっておきのワックスで仕上げました。左側がワックスを塗ったままの状態で、右側が磨き上げた後。


接着作業をスタート。全体を一気に接着する事も不可能ではありませんが、一つずつ接着していきました。


棚の上部。


側板を接着。上下が逆さまになっています。


板の中心部にも接着圧がかかるように、色々と工夫しています。


底板を接着。


ついに戸棚の形が見え始めてきました。


脚部の製作を再開。まずは、ほぞ穴を加工。


各部材のほぞ加工が済み、脚部に取り付ける鍵の準備に移りました。


金物師に特注した金具たち。日本ではまず手に入らない高精度の金具です。引き出しと扉の取っ手は磁石の反発力を利用して飛び出すようになっているのですが、想像以上の出来で大満足でした。


カギ穴も位置を確認して正確に取り付けます。


基本的な加工は蝶番加工で紹介した内容と同じです。


鍵に彫り込まれているマークは、ハッセルブラッド社の意匠のひとつ。本物そっくりにコピーされています。

注:ハッセルブラッド社から許可を得ています。


背板の準備。5枚の突き板を重ねて合板(プライウッド)にしています。緑のテープで接着部分をマスクした後、ワックスで仕上げてあります。


前編で紹介した脚の接着も上手くできていました。出来が気になっていたので一安心です。


既に締め切りまで残り一カ月を切っていた為、休み無しで毎日作業することを決定。作業台前の窓には子供達の写真を貼り付けてみました。


脚部の接着開始。

しかし、ここでトラブル発生。脚部の接着が完了してから奥行きが長すぎる事が判明したのです。材料表を書き出した時点での僕のミスでした。何度も確認したはずなのに気付きませんでした…。この段階での時間のロスはショックでした。が、短すぎるよりは、長かったのは運が良い(新たに材料を用意せずとも、短くすれば良いから)と考え直し、再スタート。

さらにもう一つ、トラブル。この後の数日分の工程を撮影した写真全てを、2歳の息子に初期化されてしまいました。カメラを普段から触らせていたのですが、まさか初期化コマンドを選んで、確認メッセージに対してYESを選ぶとは予想しませんでした(笑)。


脚を接着し直し、引き出しの製作を始めました。これは引き出しの底板です。


このような大きな引き出しの底板には、合板を選ぶ方が加工も楽で特性も良いのですが、あえて僕は無垢材を選択しました。理由は特にありませんが、綺麗だから好きという感じでしょうか。しかし、ただでさえ時間があまりないので苦労しました。

板が反るという無垢材の典型的なトラブルにも悩まされ、調節する羽目になりました。底板に対し、奥行き方向に取り付けられている材(引き出しの出し入れ時に擦れる部分となります)で反りを押さえきれず、妥協点を探りました。


引き出し前板と側板の接合部の組み手を加工。元々、あまり得意でないので好きではないのですが、そう言っているヒマはありませんでした。

これまでの経験とは作業工程を変えて、ギリギリまで機械で加工して残りを手作業でこなす事にしました。同じく職人試験を受けるクラスメートが数日前にこの方法を選んでいて、精度も悪くなさそうだと判断しました。写真は手加工を始める直前の状態です。


最後は鑿(のみ)を使用しての手作業。相手側の組み手などもこれに合わせて加工します。時間があればゆっくりと作業しても問題ありませんが、この時点では出来の良さよりも作業を早く進める事を最優先にする事にしました。

間に合わなくても良いから納得いくまで綺麗に作りたいという人もいるのですが、僕はどんなに出来が良くても、締め切り(仕事なら納期)に間に合わないようでは“所詮その程度”と思っているので、作業を進めていきました。

とは言っても、締め切りが迫ってきて焦っているようでは、僕もまだまだです(笑)…。


引き出しの取っ手の加工を始めました。この写真は二つある引き出しの、下段の物。加工部に見えている溝は引き出し底板がはまる部分です。


いよいよ佳境に迫ってきました。次回レポートでは完成写真をご覧頂けるはずですのでお楽しみに!

木工留学記

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メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!