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スウェーデン木工留学記
ストックホルム編
2006.06.07
第44回 スウェーデン最高峰の職人試験。(前編)
こんにちは。スウェーデンの須藤です。現在のストックホルムは春真っ盛りで木々や草花の若々しい葉がとても綺麗です。これからのスウェーデンは観光シーズンとしても最高の時を迎えます。
さて、今回は僕のスウェーデン留学の大きな目的にもなっていた職人試験についてのレポートです。これまで何度かスウェーデンの職人試験や、受験者たちの作品を紹介してきましたが、今回は僕自身が受験者の側になりました。
先日、作品製作が修了し、やっと一区切りがついたので久しぶりのJDNレポート更新となります。これまではあまり大きくは言わないようにしていたのですが、僕が在籍するマルムステン校は間違いなくスウェーデン最高峰。他にも家具製作を学べる学校はたくさんありますし、マルムステン校同様に大学卒としての学位を取得できる場もありますが、マルムステン校の家具製作科は完全に別格と言って差し支えないほどの高い評価を受けています。当然ながら、そこで受験する職人試験にはそれに見合った内容を求められます。
また、マルムステンの学校(マルムステン校もしくは、カペラゴーデン)で取った資格と、その他の場所で取った資格にも大きな差があります。もちろん資格の証書自体には全く差がありませんし、ヨーロッパで通用する資格証明書も全く同じ物です。しかし、内容、本人のプライド、他人からの評価も含めて雲泥の差があるといっても過言ではありませんし、マルムステン校で高評価を受けた職人試験作品は、ひとつ上のマイスター作品として認めても良いのではないかという議論もされています。かなり誇張したようにも聞こえるかもしれませんが、これがスウェーデンでのマルムステン校の評価なのです。
マルムステン校がメディアで紹介される時には“超エリート校”、“スウェーデン最高峰”、“ヨーロッパ最高峰”、“選ばれた精鋭のみ”等、言い過ぎじゃないのと思える表現が使われる事もしばしば。そんな中での受験だった為、僕はちょっと怖じ気づいてしまい、あまり大っぴらにせずにいました。だって、不合格だったら格好悪いじゃあないですか(笑)。
ということで、今回のレポートは第41回で紹介した図面過程後から始まった作品製作について紹介します。第4回レポートも先に確認して頂くとさらに分かりやすいと思います。
注:デンマークやノルウェー、ドイツの職人試験とはかなり内容が異なります。スウェーデンの職人試験の紹介としてご覧ください。また、各作業工程は平行して進められていたり、交互に行っていたりしていますが、分かりやすいように各部材、工程毎などにまとめています。
年末に図面と製作工程表などの審査を受け、製作時間の指定を受けました。工程表を提出時に、工程毎の推定作業時間を記入し計算しておくのですが、僕の場合は予想時間よりも減らされて325時間と指示されました。これは一日、約6時間前後働いた(休憩等は含まず)としたら、11~12週くらいの日数で完成するペースとなります。
ただし、製作以外の時間(例、作業準備など)などは作業に含める事はできませんし、他にも課題や、予定(例、ストックホルム国際家具見本市など)があったりするので、締め切りに合わせてしっかりと計画を立て、作業を進める事が重要になります。この試験期間中は作品を作るだけではなく、本人自身の体調、精神的なコントロールも必要でしょう。要するに、予定外の風邪をひいて1週間休んだくらいで間に合わなくなるようではダメなのです。また、基本的に意匠の変更や、製作を楽にする変更は認められず、提出した作品図面通りに作らないとなりません。
製作開始は1月の新学期から。締め切りは5月15日。かなり時間があるように思いますが、時間が過ぎるのはあっという間なのです。終了した今だからこそ、そう言えるのですが(笑)。
まずは材料の確保をから。材の選定、注文なども受験者が行います。大ざっぱに木取りをし、しばらく応力が抜ける(“木が動く”と言います)まで寝かせておきます。この作業は年末に行っても良い事になっていました。 |
そして、職人試験の必須項目である合板製作からスタート。これまで何度も紹介していますので詳しい説明は省きますが、これは合板内部の心材となる部材です。 |
節があったり、派手に反ったりしていない素性の良い物を選び出し並べます。 |
戸棚本体の部材毎にまとめます。 |
アバチ材の突き板(3ミリ厚の薄い板、ベニヤ)を接着し、大きい面積にしていきます。接着面はテープで留めてあり、裏側からこのように引っぱる事で接着面を圧着させます。 |
その突き板を心材と交差する木目方向で接着します。 |
この時点で十分な強度を持った板となっています。また、無垢の木に顕著に表れる湿度変化などによる変形を極力抑える事ができるようになります。 |
表面にカエデの突き板を接着する前の状態に成型し、重ねておきます。 |
こちらは脚部の材料。5センチ厚のカエデ材です。しかし、僕は6センチ角の材が欲しいので、貼り合わせて大きくする必要が生じました。4面とも柾目(まさめ。縦まっすぐに通った木目)にしたいので、この様に切る事にしました。 |
帯鋸(バンドソー)の定盤を45度に傾けて加工しました。作業中は普段以上に危険を伴うので注意が必要です。 |
加工後。 |
レンタカーでストックホルムから4時間くらい南の街へ、材料を探しに出かけました。既にストックホルム周辺の材木屋さんを見て回っていたのですが、満足いくカエデの突き板を見つけられていなかったのです。電話で聞いたところ、在庫はたくさんあると言う事でした。 |
雪が降っていない日だとはいえ、真冬のスウェーデン。湖もこのように凍り付いています。 |
製材から突き板のスライスまで自社で加工しているだけあって、在庫は予想以上に豊富でした。 |
僕の欲しい木目の突き板もすぐに見つかり安心しました。長旅の甲斐があったというものです。 |
オフィスへと繋がる廊下に置かれていた木彫りのクマ。 |
脚部加工の続きを開始。接着前に全てを同じように加工する準備をし、一定の形に加工しました。 |
3角形の部材を貼り合わせる大きな利点は、接着面が角に来るので目立たず、一つの部材の様になる事が挙げられます。もちろん、工程は手間が増えてしまいます。 |
圧を加えやすいように型を用意して接着作業。意外と難しく手こずりました。 |
接着後。角の接着面の圧着具合が気になりましたが、とりあえず次の作業へ進む事にしました。 |
ストックホルムの街中も見事に凍り付いています。日本ほど雪は積もりませんが、日照時間がかなり短くなるので気が滅入りそうになります。 |
凍った水面にまだ雪が積もっていない時にだけ見る事のできる絶景が、これ。しかも日没が早い(撮影時間は17時前)ことから、まだ活動中の明るい街が氷に映り込んで、非常に美しくなります。 |
次は、本体表面の化粧板となるカエデの突き板(約0.5ミリ厚)の準備を始めました。あとで分からなくならないように、各突き板に番号を振っていきます。 |
突き板の表情に合わせて貼る板を決め、長さを大まかに合わせます。 |
突き板同士の接着面は鉋等で一直線に加工します。この作業が正確に行われていないと、接着後に隙間が空く事になってしまいます。 |
接着前にまずテープでつなぎ合わせます。 |
僕の作業場所周辺。 |
写真説明扉に付くハッセルブラッド社のマークの象眼製作を開始。普通の図柄などは鋸の刃がずれてもそれほど差は目立たないのですが、今回は直線や円がモチーフなのでかなり手こずり、何度も練習を繰り返しました。 |
何種類かの素材で印象の違いをテスト。右端の物は背景もモチーフもカエデですが、モチーフの木目は横にしています。 |
パーツをひとつずつ切り出します。台を傾けて加工しているので切っていく方向(時計回りか、反時計回り)の判断が重要です。上からオリジナルの線に沿った分、Wengeベンゲ(ウェンジュ、ウェンゲとも言う。黒檀にも似ているが、こちらは木目が見える。)のパーツ、中間材、台紙。この中で必要なのはWengeだけ。18回レポートも参考にしてみてください。 |
当初の計画通り、Wenge材でモチーフを作る事としました。オイルを塗ると色の深みがグッと増し美しくなります。 |
各板の縁取りとなるWengeを接着。 |
本レポートは全3回に分けての紹介となります。製作過程など専門的な写真、内容が多くなっていますが、しばらくお付き合い下さいね。この後からさらに忙しくなってきます。
木工留学記
ストックホルム編
カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。
本になりました!
スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0
当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!