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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2007.02.14

第52回 OZONEで個展!

こんにちは!新宿リビングデザインセンターでの個展が先日、無事に終了しました。たくさんの方とお会いでき、興味深いお話を頂くこともできたりと大変貴重な時間を過ごせました。当初は1月末にスウェーデンへ戻る予定でしたが、計画を変更し、もう一カ月ほど日本に滞在することになりました。今回はその個展の報告です。

個展初日(1月4日)が迫る中、出品予定の家具たちの手入れをしました。どの家具たちもストックホルムの自宅で普通に使っていた為、汚れや傷などが目立っていたからです。


さらに子供達による落書きという問題も…。


一部、接着が浮いてしまった場所があったので、再接着をしています。


一通り、手入れをした後に、オイルを再塗布。これで随分と良い状態に戻りました。当初は日本とスウェーデンの気候差で、家具たちに大きな問題が生じないか心配だったのですが、幸い大したことはありませんでした。ただし、引き出しは揃って動かなくなり、調整が必要でした。


次はパネルの準備。家具の説明だけではなく、写真なども一緒に展示することにしました。


僕が今回、選んだのは和紙。普通紙に印刷するのと違い、インクが軽くにじみます。高解像度写真だと堅い表情になりやすいと思いますが、和紙に同じ写真をプリント(インクジェット)すると、ずっと軟らかい表現が可能なのです。


会場への搬入は業者さんにお願いすることにしました。さすがに慣れているだけあって、あっという間に梱包、積み込み、移動と手際よくこなしていました。


そのまま会場へ搬入。約100平米のスペースです。


まずはパネルの設置から。


通常は会期前日に搬入なのですが、年末ということでリビングデザインセンターOZONEの2006年度最終日に行うことができました。個展初日まで一週間の猶予があった為、追加物を準備する余裕がありました。


追加物の一例、職人資格証の額。ちょうどチーク(南洋産。高級材)の端材があったので利用しています。結局、年末年始を完璧に返上して前日まで色々と作業していました。


そしてついに個展初日。この巨大な新宿パークタワーの6階が会場でした。


新年にもかかわらず、たくさんの方にご来場頂けました。初日ということで、緊張していたのですが杞憂に終わりました。


僕の家族も会場へ来てくれました。この写真は会場内を裸足で走り回る娘。


こちらは息子です。普段使っていた家具たちばかりなので、大胆に遊び始めました(笑)。


会場内の全ての家具は触ったり、座って頂いても良い事にしました。やっぱり直に触れることが出来る方が良いですし、そうしたいと考えました。


初日の夕方にはウェルカムパーティーを開催しました。


用意したのはスウェーデン料理! 伝統的なオープンサンドよりは小さい一口サイズなので食べやすく、美味しかったです。


ここからは会場内を紹介します。まず外周部。カッティングシート(戸棚を表現した画像データから切り出されています)をガラスに貼っています。


和紙に印刷した写真です。これはストックホルムの昼と夜のパノラマ写真。


会場内に入ってまず最初に目にはいるのが、この子供向けの家具。左側の壁には個展の趣旨説明を掲げました。内容は以下の通りです。


スウェーデンの近代家具デザインの巨匠カール・マルムステンが創立し、ヨーロッパでも最高レベルの技術教育が確立しているCapellagarden(カペラゴーデン)とCarl Malmsten CTD(カール・マルムステン木工技術デザインセンター。現在はスウェーデン国立リンショーピン大学に所属)で家具製作とデザインを学んだ須藤 生の作品と活動を紹介する展覧会です。

私は父が日本でオルガン製作の工房を構えていたことから、木で物を作ることに興味を持ち、1999年の夏にカペラゴーデンのサマーコース(3週間)に参加しました。滞在中、ここは物作りを学ぶ場として文句のつけようがないほど最高の環境であることを実感し、スウェーデンで本格的に家具作りを学びたいと考えるようになりました。

カペラゴーデンは1957年にカール・マルムステンが、生活や社会での基盤となる“物作り”の聖域を作りたいと考え、創立した学校です。木工・家具デザイン科、テキスタイル(織物、プリント、染色)科、陶芸科と園芸(有機栽培によるガーデニング)科の4つのコースを有し、約60人の若者が学んでいます。学生は基本的に校内の寮で生活し、生活に必要な物を自分たちで作り、使用します。自由な校風に溢れている中で3年間生活し、工業的な大量生産とは異なる、芸術・工芸としての物作りの場とは何かを知ることができました。

在籍中にスウェーデンの家具職人試験を受験することが出来たのですが、まだまだ至らぬところがあり、さらなる勉学を続ける為にカール・マルムステンCTDを受験することにしました。カール・マルムステンCTDは1930年に当時のトップデザイナーであったマルムステンがたった4人の学生のみでストックホルムに創立した家具製作の学校です。
マルムステンがデザインした家具やデンマーク家具などを、高い品質で製作できる職人を継続して輩出する場として、木工家具の分野で名実ともにスウェーデン最高の場となっています。

現在はさらに家具デザイン科、家具修復科、家具生地張り科、ギター製作科の5コースを有し、約60人の学生が在籍しています。
各科の学生は非常に高いレベルの技術を有し、スウェーデン王室や、ストックホルム市庁舎、美術館などからの依頼(特に修復)もあるほどです。この2校では単に家具製作だけではなく、家具に関する様々な知識、技術を学びます。家具史、家具様式、構造、美術知識、クロッキー、英語、デザイン手法、設計製図、プレゼンテーション、経営知識などです。

さらにマルムステンCTDでは各課程毎にテストやレポートが課せられます。そして、マルムステンCTDの最後の製作課題として、家具職人試験を昨春、受験しました。
日本ではしばしば誤用、誤解されているのですが、職人資格は「一定のレベル以上の仕事ができる」ことを証明するもの、そして、もう一つ高位のマイスター資格は「独立して職業を営むために必要な知識を持った、経験を積んでいる職人」ということを証明するだけであり、「名人、達人、素晴らしい技術」を持っている事の証明ではありません。とはいえ、スウェーデン留学の集大成として職人試験に挑戦することは私にとっても大きな目標でした。

スウェーデンの家具職人試験を受験する為には戸棚、机もしくは他の家具でもかまいませんが、受験作品には「製作図面」「引き出し」「手加工による組み手」「扉」「鍵」「蝶番(ちょうつがい)」「突き板」「下地処理」「塗装処理」などの必須項目が備わっている必要があります。製作に先立ち提出した図面と、完成作品が評価対象となります。

スウェーデン最高峰のマルムステンCTDでの受験は、合格は当然として、マルムステンの学生として恥ずかしくないだけの内容を要求されます。正直、精神的な重圧はありましたが、ここ以外では絶対に経験できない貴重な時間を過ごせたと思っています。

展覧会のタイトル「PAUS」はスウェーデン語で休憩を表す言葉。本展は私にとって6年間のスウェーデン留学の一区切りとしての休憩(展示)を意味しています。

スウェーデンと日本の気候差、そして、日常生活で普通に使用していたことから、製作直後の完成度はありませんが、生の木から削り出したスプーンなどの小さな物から、職人試験受験の為に製作した戸棚などを通して、日本には無いスウェーデンの家具職人システムを垣間見て頂けましたら幸いです。もちろん、家具に触れたり、椅子に座って頂いても構いません。
ただし、指輪を付けた手などで家具表面を撫でる時は注意して頂けますと幸いです。
その他、疑問点がありましたら、ご遠慮なくご質問ください。

2007年1月  須藤 生

予想外に評判が良かったのがこの絵本棚。木の機関車を走らせて遊べるようになっているのですが、子供さん達に大人気。お父さん、お母さんはゆっくりと会場内を見ることが出来たようです。


マルムステンの椅子を三脚並べました。背後の壁には僕とマルムステンのプロフィールを紹介しています。


会場中心には椅子とソファーテーブルを配置。


スポットライトで予想以上に光り輝いてくれたテーブル。この放射状に加工したテーブルには多くの方が驚かれていました。


羊の毛皮でくるんだクッションが人気でした。


この椅子の見どころはやはり後ろ姿でしょう。座り心地の良さにも関係しています。


ちょうどテーブルの上に位置するように吊したランプ。和紙を折って作りました。


大皿などを収納する壁掛けの飾り棚。


ミラノサローネに行く資金を稼ぐために、学生10人で200個を共同で作った収納棚。


指輪やネックレスなどのアクセサリーを収納する棚。


これら3つの棚は通常は壁に固定する様になっています。しかし、会場の壁に穴を開けることが出来ないので、急遽、ディスプレイ用の台を作りました。


収納力抜群の戸棚。松で作っていますが、オイルを塗り足したら、グッと色が深まりました。


小物も並べました。真ん中にあるのは生の木からナイフで削りだした器です。


スウェーデンの学校や生活の様子を、プロジェクターを用いて映写。戸棚の下にうまく隠せました。


そして会場一番奥に見えているのが、職人試験受験に際して作った戸棚。戸棚の前にある閲覧台には展示作品の図面を並べました。


最新作でもあるハッセルブラッド戸棚。特注の金具が随分と注目されました。


会場内でたくさん撮影した中で一番良い写真だったのがこれ。赤ちゃんを寝かせてくれました。気に入ってくれたみたいで嬉しかったです。


お陰様で12日の会期で1,100人を超える方にご来場頂きました。休憩する間もないほど忙しくはありましたが、非常に有意義な時間を過ごすことが出来ました。多くの方と知り合えたこともそうですし、取材や撮影を受けたりととても楽しくこなすことができました。

まだやり残していることが少しありますのでスウェーデンに戻りますが、今後のためにも非常に良い経験になりました。

ご協賛いただいたジャパンデザインネットの皆様にも感謝致します。ありがとうございました。

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!