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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2008.12.24

第71回 美術品のオークションに行く

こんにちは! ストックホルムの須藤です。今年もオークションの季節がやってきました。ここ数年ほど、美術品関連のオークションは結構な高値で推移してきましたが、今年はちょっと様子が違っています。

単純に思いつく点としては、現在の世界的な経済危機。投機目的での入札が減り、美術品市場に流れ込む資金が減ったのでしょう。でも、逆に考えれば、本当に欲しい人にとってはチャンス言えるのかもしれません。将来、またいつか来る好景気時に価値が上がることも期待できます。とはいえ、その様なやましい考えを秘めて美術品を購入するのは、あまり好ましくはありませんね。

美術品のオークションというとサザビーズや、クリスティーズが有名ですが、スウェーデンのBukowskisブコウスキーもクオリティの高い品ばかりを扱うオークションハウスとして非常に有名です。特にブコウスキーが得意とするのは、やっぱり北欧の美術品。コペンハーゲンのラディソンSASホテルがヤコブセンの家具(このホテルのためにデザインした、スワンチェアやエッグチェアのオリジナル)を放出した際に扱ったのもここでした。

オークション前、二週ほどに渡って開催される出品物展示会に出かけました。そのへんの美術館よりも遙かに見応えがあるんですよ。スカンジナビアン デザインに興味がある方には非常に魅力的な場所です。気に入れば入札して購入してしまうことも出来ますしね。

会場入り口に置かれていたのは、カール マルムステンの家具と並んで最高品質の物を手がけるSvenskt Tennの家具。数日前にIKEAに行ってきたばかりですが、比べるのが可哀相になるくらい素晴らしい座り心地でした。雲泥の差です。


興味のある出品物を確認しにたくさんの方が訪れていました。業者もいるでしょうし、近所からの散歩がてらに立ち寄った、という雰囲気の方(高級住宅街に近い)まで色々です。ウン百万円の作品が普通に並んでいますからね。とはいえ、誰でも入場可能です。


基本的に、家具インテリアや貴金属品は試用が可能です。憧れの高級椅子だとしても、ゆっくり座ることができるんですよ。好きな方には本当に堪りませんよね(笑)。


デンマーク家具も豊富です。ウェグナーのチャイニーズチェアの6脚セットが普通に並んでいます。


ウェグナーというと、とかく椅子が有名ですが、綺麗な机もたくさんあるんですよ。特にこのダイニング用の机は美しいフォルムです。椅子と一緒に揃えたい物です。


ヤコブセン マニアには見逃せない椅子がありました。コペンハーゲンのラディソンSASホテルの為にデザインされたスワンチェアの最初期モデル。チーク積層による四本脚が付いています。現在は作られていませんが、当初は注文可能だったのです。


サーリネン(フィンランド)のチューリップ チェアー6脚。木を主材とした工芸品が多い中、この様なモダンな家具も並んでいます。


ヨーゼフ フランクがデザインしたスベンスクトテンの家具たち。超高級家具がオークションならば格安で手にはいるかもしれません(とはいえ、まだまだ高価ですが)。


今回はリンドベリの貴重なコレクションが、国立美術館から出てきました。数年前に開催されたLindberg回顧展で並んでいた作品がゴロゴロしています。ファンにはヨダレ物としか思えない物が山ほど転がっています。


リンドベリは陶器以外にも色々と手がけています。
手前にあるのはバーベキュー用のグリル。煙突が可愛いですよね。奥にあるテレビも彼の作品です。間にあるのはマッツ テセリウスの椅子「El Rey」。真鍮製というわけの分からない凄さ(笑)。美術館の収蔵品になるほどの有名な作品です。


リンドベリの名の知れた作品が並ぶ横で、僕が気に入ったのがこれ。子供用のカップ&ソーサーです。カワイイでしょう。


北欧インテリアに興味がある人には夢の様なリビングセットですよね。


ウェグナーのThe Chair。チーク材で、籐張りの座面。The Chairの中でも最高級品。当初は入札するつもりだったのですが、子供がいる我が家に籐張りの椅子はリスク大。面で圧をかけるように座る(普通の使い方)ならば良いのだけど、点で圧をかける(例、座面上に立つ。座面上でジャンプ)と、籐が切れてしまう可能性が大きいからです。

でも、落札額を確認したら、やっぱり入札すべきだったかなと後悔。IKEAの椅子と比べたらバカみたいに高いけど、The Chairとして見ると、ものすごく安いから。


これが座面。40-50年前に作られたにもかかわらず、この籐の状態の良さから判断すると、おそらく張り直しをしています。それだけでも数万円は費用がかかるので、やっぱり入札すれば良かったなーと思ってしまうんです(笑)。


良いですねー。こんな綺麗に整頓できる棚が書斎に欲しいものです。


もう一つのThe Chair。マホガニー製。この椅子は、ケネディとニクソンが大統領選の討論会で使った椅子として、The Chairは有名になりました。なかなか良さそうだったのだけど、継ぎ手(ジョイント部)が今一つの出来に感じたので入札しませんでした。

でも、落札額を知ったら、やっぱりちょっと後悔(笑)。マホガニーという時点でかなりの高級材だからです。


椅子や家具に、あーだこーだと言っている僕が吸い寄せられてしまったのがこれ。圧倒的な存在感を放っていたDubuffet(フランス)のアクリル画。予想落札価格は300-400万クローナ。しかし実際の落札額は280万クローナと低め。
でも、よくよく計算すると、約3500万円。夏頃のユーロ高円安時の値で換算すれば約5000万円。落札者はさらに手数料や、著作権保有者への支払い、その他諸々でおそらく4500万円は必要になります。
あるところには、やっぱりあるんですね…。


こども達も連れて行きました。ブルーノ マットソンのモデル41に座って絵画の品定めしているのが息子です(笑)。これは量産された椅子だけど、30年前の物で希少なのか、なかなかの値で落札されていました。
あるところには、やっぱりあるんですね…。


一体どこから出てくるのかと思える銀製の身の回りお手入れ品セット。貴族の旅行用品だったのでしょうか? 必要ないとは分かっているけど、非常に出来が良いので欲しくなります(笑)。でも、さすがに40万円台ですからねえ…。


オークションは綺麗な物を「無料で」たくさん見ることができ、非常に勉強になりますので本当に楽しいです。入札しなくても良いし、落札しない限り費用は発生しないですからね。次は暗い冬が明け、気持ちよい季節が近づく春です。

今年も一年、このスウェーデン木工留学をご覧くださり、ありがとうございます。この場を借りて、ご存じない方に宣伝をさせていただきます。実は今年初めに、当連載をまとめた本「スウェーデンで家具職人になる!」を早川書房から出版しています。全国の書店で購入できますので、ご興味のある方、ぜひこの年末年始にでもご覧くださいね。

それでは皆さん、良いお年をお迎え下さい。来年もよろしくお願いいたします。

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!