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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2004.12.01

第27回 めざせミラノ!

こんにちは、須藤 生です。今年の年末も約3週間のクリスマス休暇中に、日本へ一時帰国をする予定です。久しぶりに美味しい日本食を食べたいと思っています。ちなみに去年は帰国後、最初に食べたのは某有名店の牛丼でした。それでも最高に美味しいと感じましたが、今年は牛丼がないんですよね。他の店かな(笑)。さて、先日からスウェーデンからのblog発信を担当する事になりました。不動産の会社サイトの一コンテンツとなっています。僕のサイトやJDNで紹介している事とは少し違った事を書けたらいいなあと思っています。

ストックホルムは現在、真っ白になっています。11月中旬に初雪が降ったのですが、これがいきなりの大雪。この時期としては、これまでで最高の積雪量になっているそうです。


前号でも少し紹介していますが、“春のミラノサローネを見に行く為の資金稼ぎとなる商品を作る”という課題が始まっています。簡単に機能を説明すると、丸棒型のキーホルダーをそのまま差し込める穴が正面の板に並んでいます。帰宅時などにそこへ挿し戻しておけば、後日また出かける時には引き抜けば良いというアイデアです。
得票一位となった僕の提案がこれでした。裏側には左右にスライド可能な収納部があり、手帳や、手紙などを収納する事ができるようになっています。キーホルダーを使った収納システムです。


製品に近いプロトタイプを作りました。異なる材種と木目の物を5種類用意し、検討しました。これは家具製作科と家具デザイン科の2年生10人による共同プロジェクトで、発案から製作、マーケティング、発送まで全て行います。家具製作科は大量生産を効率よく行う事、家具デザイン科は企業とのコンタクトや、販売の為の活動等が主になっています。


写真説明


ピンを挿す穴の配置を提案。この商品の細かい説明は、このレポートの後半でまた紹介します。


木目が良く見え、オイルを塗ると良い色になる楡(ニレ)を正面の板の材として選択しました。自分たちで製作する事も出来ますが、目標製作数が220個なので、幅600ミリになるように接着した突き板(ベニヤ。木をスライスした薄い板)を用意し、外注することにしました。


製作開始前に1つだけ最終モデルを用意しました。当初は取り外し可能な仕切りにする予定でしたが、強度を出す為に接着する構造に変更しました。材は白樺。


正面の湾曲した板の製作。手前に見えるのは突き板を接着する時に使用する型。


複数枚の突き板を型に載せながら接着することで湾曲させています。接着時の突き板の向きについては、かなり議論を重ねました。当初は断面が綺麗に見える事を優先し、全ての突き板を同じ向きにしようと考えましたが、結局、中心付近の薄い2枚だけを交差する方向にすることに決定しました。こうする事で、湿気による木の収縮等を極力抑える事を期待しています。


完成した最終モデルについて確認。同じ物をたくさん作る為に、工程を合理的に進める為の工夫がたくさん取り入れられています。この点は、一品生産をする家具とは異なります。


家具製作科の工房内の様子を少し。僕たち2年生は今、椅子製作の課題も平行して進めています。これは作者不明の、おそらくデンマークの椅子。ほとんどの接合部が直角ではないので、手間がかかります。


第24回のコペンハーゲンからのレポートでも紹介した、ニールス・ミュラーの椅子です。この後は手作業で形を削り出していきます。これら二つの椅子はローズウッドで作っているのですが、なんと周りで作業している僕なども含めて何人もが被(かぶれ)てしまいました。僕はまだ症状が軽い方でしたが、製作者本人はもう全身に発疹が出てしまい、かなり痒いらしく気の毒でした。病院に行って薬をもらい少し和らいだようです。しかし、完成しても座れるのでしょうか(笑)。


これは去年の3年生が卒業製作として取り組んだ曲げ木の椅子。詳しくは理解していないのですが、特殊な加工を施し、木繊維の組成を変化させてあるようです。通常の曲げ木椅子は蒸してから曲げるのですが、これは乾燥している状態で型に沿わせながら変形させています。3本の棒で背もたれ、脚、座面全てを形成しています。


11月中にカール マルムステンの小さな展示会が3週間ほど開催されました。テーマは彼が残してきた功績の紹介でした。中心となっているのは彼が力を入れた工芸教育についてで、マルムステン校や、カペラゴーデン(僕が3年間在籍していた学校)の学生の作品も一緒に展示されました。


これは現在も販売されている、マルムステンがデザインした一人がけの椅子たち。2000前後のデザインを残しているマルムステンですが、これらはその中でも代表的な作品として有名です。座り心地もさることながら、生地の質、張り方も素晴らしい物があります。右奥の椅子Jatte Paddanは、特に極上の座り心地。


マルムステンの作品では珍しい屋外用の椅子。雨など水分に対応する為に接着剤は使用せず(通常の接着剤は水分で溶けてしまいます)、ボルトで各部品が固定されています。微妙に曲線のあるデザインになっています。工業製品は極力、この様な曲線を排除して作りコスト削減を考えます。この様な屋外で使用する物では使用感にそれほどの差は現れないと思いますが、意匠的要素を残すところはとてもマルムステンらしいと思います。


これはマルムステンが妻への誕生日プレゼントとしてデザインした戸棚。裁縫関連の素材などを収納する戸棚です。扉の浮き彫り文様は一枚の板から削り出されています。


マルムステンの一般家庭向け家具の中でも特に代表的な椅子“Lilla Aland”を、18人の学生がそれぞれの感性で装飾しました。


これがそのオリジナルモデル。3万円しない価格で、今でも販売されています。木の座面なので堅そうというイメージがありますが、意外と悪くありません。カペラゴーデン在籍中に、自宅で使用していてそう思いました。ルーツはオーランド(Aland)島の中世北欧(11~16世紀)に作られた教会にあった椅子です。


その中の一つ。草花の文様をつけています。これは描いているのではなく、焦がしながら彫り込んであります。この展示会場は暗めという事もありますが、光の強弱も大きく撮影に苦労しました。増感してノイズが増えてしまっていますが、雰囲気は十分に伝わると思います。最近、いつも使用しているデジカメ(2000年モデル)の動きがおかしくなる事もあり、ちょっと困っています。そろそろ買い換え時かな~。スポンサー募集中です(笑)。


これは非常に珍しいLilla Alandの揺り椅子バージョン。初めて存在を知りました。


カペラゴーデンの学生が製作した椅子たち。


マルムステン校の学生が製作した家具達。僕が製作した物も展示されました。


ストックホルム中心部にあるデパートで行われていたLEGO(レゴ)の展示。F1のフェラーリチームと提携している新商品の販促活動です。レゴで遊びながら育った僕にとってはかなり気になる物なのです(笑)。タイヤ以外は全てレゴで出来ています。実際のデザインとは異なりますが、スポンサー名もちゃんと入っていて本格的でした。


さて、また製品プロジェクトに話を戻します。商品の宣伝方法を皆で話し合っていた時に、僕はウェブサイトも作ろうよ、と提案しました。もちろん皆は乗り気で即時決定になったのですが、その為の知識を持っているのは僕のみで責任者になってしまいました。ドメインを取得する事から始めました。後ろに見えるパソコンはギター科の学生が音響チェックなどに使っている物で、立派なステレオシステムとスピーカーがある事を発見。すぐに僕のマックと繋げて極上の作業環境を実現しました。椅子は日本では(たぶん)見かけないブルーノ マットソンの椅子。


販促活動に使用する写真をプロカメラマンに撮ってもらう為に、スタジオへ出向きました。マックと接続し、リアルタイムに撮影画像をチェック出来るシステムに僕は興味津々。また、奥のレフ版(光を反射拡散させる板)が普通の発泡スチロールだったのにも感心しました。これで十分に用途を満たしますし、軽くて経済的です。


近距離からのディテール撮影。


ピンを撮影。豪華なセットだ(笑)。


これらの写真を取り込んで完成が近づいているウェブサイト。僕が制作担当です。サイトのシステム自体は誰にでも分かりやすいようにシンプルに作りましたが、いろいろと工夫をしています。プロの方にはどの様にうつるでしょうか。ぜひ、ご意見を!裏側に収納されているノートや絵はがき、吊されている単語帳は、つい最近ストックホルムに開店した無印良品の物。かなり印象が良いみたいです。


商品名の「Hallt.」は、軍隊などでの“止まれ!”を意味する言葉だそうです。当初はこの名前に難色を示す意見もあったのですが、結局、この様に落ち着きました。このページでは商品説明をしています。下にスクロールすると過去の作品を見る事が出来るようになっています。


プロジェクト参加者の紹介。クリックするとこれまでの作品なども見られるようにしているのですが、なかなか写真を入稿してくれない。。。


このページでは各機能を紹介しています。これは真ちゅうと木を組み合わせたキーホルダーの写真。これをそのまま穴に差し込みます。当初は木だけで作る案でしたが、高級感を出す為に真ちゅうを使用しています。


スポンサーのページ。これは企業、教育、一般の認識など日本の風土とは大きく異なる点だと思いますが、スウェーデン(たぶんヨーロッパ)では学生の活動や、企画に対して企業が気軽にサポートしてくれます。上から、材木の会社。突き板などを提供してもらっています。接着剤のメーカー。マルムステン家具店。商品見本を置いています。カメラマン。無料に近いコストで受けてくれました。サンディスク。商品見本に吊すUSBメモリーを提供してもらいました。


最後にカール マルムステンについての紹介。他にも高解像度写真や、使用法が分かる動画なども置いてあります。ちなみに値段は日本円にして約40,000円です。売れるのか心配ですが、過去の経緯からすると、売れるらしい(笑)です。


商品の製作期間は3週間の予定で、既に始まっています。220個をまとめて製作するので、工程をしっかり考えて手際よく進める事が重要です。朝8時から17時までが定時となっていますが、僕以外は20時まで作業をしています。僕は家族持ちなので帰宅が許可されています。


背板に使用する白樺の突き板を接着し、幅を持たせます。接着法は第10回のレポートをご参照下さい。家具デザイン科の学生にも手伝ってもらったのですが、無駄話ばっかりで作業が進まないので僕はイライラしていたのですが、他の皆(家具製作科の)もそう思っていました(笑)。


ある日の風景。散髪中。


大雪の中、息子と一緒に買い物へ。実は新調したばかりのベビーカーを試したかったというのが本音です。店でかなり時間をかけて選んだだけあり、満足いく性能を持っています。たぶん日本で手に入る物全てより高性能なはず。年末の帰国時にも持っていく予定です。


ちょっと早いですが、それでは良いお年を~!

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!