MENU

スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2006.08.02

第47回 マルムステン校、春の展示会

こんにちは。スウェーデンは今、夏真っ盛りで最高のシーズンを迎えています。長い冬と比べると短い夏ですが、スウェーデン人は一年分の太陽の光を浴びようとしているのではないかというくらい日光浴をしています。ベンチに座っている人々も、まるでヒマワリのごとく太陽へ顔を向けるほどです。

今回は、6月前半に開催されたマルムステン校での展示会の紹介です。この時期はスウェーデンでは学期末にあたり、ストックホルム中のデザインスクールが一年間の成果を発表します。コンストファック、ベックマンスなどの学校では卒業プロジェクトの展示が中心ですが、規模の小さなマルムステン校では1、2年生の作品も展示しました。

卒業作品、プロジェクトから大きなチャンス(例、企業や有名デザイナーからのコンタクト)を掴む事も十分にあり得るので、各校とも学生の作品展示とはいえ、真剣そのものです。

マルムステン校では会期数日前から、校内を展示場とする為の準備を始めました。今年はデザイン科の学生の一人が卒業プロジェクトとして展示会を全て取り仕切り、彼女のプランに合わせて必要な場所は全て壁を塗り替えるなど準備を進めました。

スウェーデンへ来て感心した事柄の一つに、“企業が学生をバックアップしてくれる事”が挙げられます。今回も塗料(かなりの量になったはずです)、必要な道具一式、広告印刷、パーティで振る舞うお酒などなど、彼女は色々なところに掛け合って揃えてきました。学生達が将来の顧客になり得るとはいえ、なかなか懐が広いと思います。彼女が用意した広告はストックホルム中の看板など広告スペースに貼られ、展示会開催を宣伝しました。国立美術館や、近代美術館の企画展などと一緒に並んでいる事も多く、とても目立っていました。

初日は家族を連れて学校へ。地下鉄内から旧市街を眺めています。


駅から学校までの道のり。バスに乗ればすぐなのですが、天気が良いので歩いて行きました。6月とはいえまだ上着が必要。


この道からはストックホルム市街を一望できる素晴らしい眺めを楽しむ事ができます。


学校近くにある教会の芝生でランチ。子供のペースに合わせていたので、展示会オープン式典には間に合いませんでした。


まずは1、2年生の作品が並んでいる会場へ。第43回リポートで紹介したストックホルム家具見本市に出品した作品も幾つか並んでいます。


家具製作科の2年生がつくった椅子。第33回リポートなどで紹介していますが、椅子一脚から採寸、製図、製作をし、オリジナルと同じ物を作る課題です。左の3つはカール マルムステンがデザインしたMaj、市庁舎の椅子、Herrgardsstolen。一番右の物はKarl-Erik EkseliusのF137という椅子。超名作椅子を作ろうとしている学生がいるので、来年も楽しみです。


こちらは家具デザイン科の1年生がデザインした物。手前の二つの椅子の奥にある物はなんだか分かりますか?


家具製作科の1年生が作ったマルムステンの机。


突き板の取り扱いをこの課題(第10回リポート参照)で学びます。


家具製作科1年生が作ったマルムステンのチェスボード(内部はバックギャモン)。右は家具の座面や生地張りを学ぶコースの1年生が作った化粧台用の椅子。


家具製作科1年生が製作したサイドボード。フィンランドからの学生です。


あばら骨の様にも見える戸棚。巻き扉になっていて上へ向かって開きます。


カナダからの交換留学生がデザインした椅子。ちょっと面白い。


まだ職人試験作品まっただ中の家具生地張りコースの学生達。この時、締め切りまであと2週間ほどで、表面生地を残すのみの段階。いつ見ても素晴らしい技術です。


生地に張力を持たせながら作業を進めていきます。


娘の食事も兼ねて、校内のカフェでちょっと休憩。


ここからはデザイン科の学生達の卒業プロジェクトを紹介します。これはサラの作品。


なんと展示用に芝生まで用意してきました。屋外用の家具で、企業からのサポートも受けています


ティムがデザインした椅子。スチールフレームを自分で曲げていたので驚きました。


IKEAとの共同プロジェクトとしてエリックがデザインした物。


今回の展示会を取り仕切ったニーナの戸棚。白い机と椅子は展示会用に用意したダミーです。戸棚だけを置くよりも雰囲気が出ますね。


この戸棚は彼女がデザインをし、家具製作科の学生が製作しました。


マティアスのソファーでくつろぐ学生と卒業生たち


そして僕は3年間の集大成でもある職人試験作品を展示しました。職人試験を受験した4人には専用のスペースが用意されました。


僕の戸棚“ハッセルブラッド”と一緒に写る息子。


ピョンと飛び出す引き出しの取手に早くも気付きました。


これはクリストッフェルの職人試験作品。ユニット式になっていて、様々な形状へ変化させる事ができます。


ラスムスの戸棚。左右に開く巻き扉には象眼が施されています。


内側には扉や引き出しなどが。


数年前まで家具製作科の教師だったレイフが来校。


検査官の様に見ているのでドキドキです。


エメリーの机に触りたいのですが、僕にダメと言われ手が出せない息子(笑)。


このエメリーの職人試験作品は、おそらく過去に例のない最高評価である5.00点(要するに完璧という評価)を受けました。全ての検査項目が満点でない限り、あり得ない得点なので素晴らしいです。


左右に引き出しを持った書斎机です。真ん中のボード内にはラップトップコンピュータを収納できるようになっています。


蝶番(ちょうつがい、ちょうばん)の加工も完璧です。下側のネジ頭もヤスリで削ってあるのですが、机の面とあまりにも近い為、苦労したようです。第44回から46回リポートあたりをご覧頂くと、さらに分かりやすいと思います。


前面が曲線を描いているので、取り付け時に金属板(これは鍵)も曲げています。


底面に隠れている鍵穴。


上から見える部位だけではなく、底面などの加工もバッチリと行われています。


天板も脚部と隙間なく接着されています。濃い色の木は接着面が目立たないという利点がありますが、明らかに高精度に加工されています。


脚のディテール。


引き出し側面。濃さの違う木を組み合わせています。


この机の名前「MIMI」は、彼女が小さかった頃の愛称だそうです。ただ、この名前はスウェーデンではミニーマウスを指すので少しからかわれていました。


僕と一緒に校内に撮影スペースを用意して、作品撮影。エメリーはノルウェーの首都オスロ出身です。この3年間、毎日の様に頑張っている姿を見ていた(僕などはあっさりと帰宅)ので、この評価も当然だと思いますし、僕もとても嬉しいです。


それではまた次回!

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!